PSYCHO-PASS

2周年記念『PSYCHO-PASS(サイコパス)』後編

4
「はぁぁぁーーーっ」

エレベーターに乗った途端、盛大にため息をつく。

昨日、任務を終え一係に戻った後は、何事も無かったかのように、事後処理が待っていた。
監視官であるつくしには、今回の一件について書類を提出する義務がある。その書類作成中も、他のメンバーは適当にリラックスしながら好き勝手している。
…ように、つくしには見える。
途中、滋が『お茶にしようよ』と誘ってはくれたが、色々衝撃が大きくそれどころではなかった。

そんなことがあった翌日の、課長室への呼び出し。
移動か、首か。
移動は仕方がないとしても、首は困る。何せ学費免除の要件は、最低5年間の警察勤務なのだから。

現場で何も出来なかったという自己嫌悪も加わり、気分はどんより重い。なのにこんなときでもつくしのサイコパス検診はクリアカラー。我ながら一体どういう構造をしているんだ? と問いたくなる。
ノック後、返事を待ってドアを開けた。



「如何でしたか? 初日の感想は」

抑揚のない声で西田が淡々と尋ねる。怒るでも呆れるでもないその口調が、今のつくしには何ともそら恐ろしいものに感じてならない。
つくしの脳内を『クビ→学費免除の撤回→借金生活』の言葉がぐるぐると回る。

「もっ…申し訳ございませんっ」

兎に角、詫びるしかないとばかりに頭を下げる。

「……はい……?」
「昨日の出動ではろくな働きも出来ず、大河原監視官と執行官に助けられてばかりでした」
「助けられた……」

そこで絶句した後、西田の口元が僅かに緩む。

「……あの……?」
「…そうですか…。貴女は『助けられた』と思ったのですか…」
「…はい…?」

西田の意図が判らず、首を傾げながらも是、と答える。
今度は先程よりはっきりと、笑っているのが見て取れた。

「…あの…課長…?」
「…ああ、すみません。珍しかったものですから。
あれ程、執行官に好き勝手されたというのに怒らない監視官というのが」
「…はぁ…」

西田曰く、監視官になるものは元々の成績も良く、自らのサイコパスにも自身があるものばかり。
エリート、つまりは妙な選民意識があるという。
そのため部下、しかも“潜在犯”である執行官が勝手に行動し、ときには監視官を叱り飛ばす。つくしは言われなかったが、『この無能』『使えない奴』とまで言われた人も居たという。

ーそういえば私は『向いていない』って言われたよなぁ…。
言葉と共に思い出す、類の瞳。

どきん。
ふと胸に沸き上がる不可解な気持ちを、慌てて追い出すうちに、ひとつの疑問が浮かび上がった。
そこまでして、何故彼等を“執行官”のままにしておくのだろうか。
変な話だが、“潜在犯”はそれなりの数はいる。その中で“執行官の適正有り”と認められるものは少ないにしても、それ以上に監視官の成り手は少ない。何しろ採用条件が厳しい上に、激務により自らのサイコパスが“濁った”ことにより職務を追われることもあるのだから。

そんな疑問を察したかのように、西田が告げる。

「そこでですが、牧野監視官。貴方にお尋ねします」


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エレベーターからつくしが降りると、斜め前にある非常階段の扉が開いた。そこから現れたのは、長身の男。

「あ…。おはよう…ございます…」
「……………」

類はつくしに一瞥をくれただけ、無言のまま一係室へと向かう。
向かう方向が同じであるため、知らず並んで歩く形になった。

「あの…昨日はお疲れ様でした」
「……………」
「今日は遅番ですか?」
「……………」

つくしが幾ら話し掛けても反応はない。

ー…そういえばそう書いてあったっけ…。

先程、課長室で読んだ内容を思い返す。





つくしの恐れに反し、西田
ー上層部につくしの解雇の意思はないと言う。

「このまま一係への在籍を希望しますか?」
「あの…ちなみになのですけれど…」

万が一、他への転属を申し出た場合はどうなるのか?
尋ねみたところ、少なくともクビにはならないらしい。
但し、業務上の事由以外になるため、学費免除は取消し。流石に一括弁済はさせないが、毎月の給与からの弁済を余儀なくされる。おまけに今よりも確実に給与は下がる。
今の職場は大変そうだが、それは仕事である以上、どこに行っても同じこと。自ら職を辞する理由はない。

『…あんた…向いてない…。…早く辞めた方がいいよ…』

言われた声を再び思い出し、ブンブンと首を振ってその言葉を追い払う。


つくしが現在の部署への在籍希望を告げると、西田はひとつのデータカードを手渡した。

「これは何でしょうか?」
「一係の執行官に関するデータ。貴女に続ける意志があるのであれば、知っておいた方が良いでしょう」

但し、内容は極秘なうえにデータも持ち出し厳禁とのこと。つくしは自らの小型端末を取り出すとデータカードに繋ぐ。

書かれていたのは執行官のパーソナルデータ。
執行官になった経緯はそれそれ異なるのだが、四人には幾つかの共通点があった。

先ずは年齢。
四人ともかなりベテランに見えたが実はまだ若く、年齢はつくしのひとつ上だということ。
そして、その生い立ち。
道明寺、花沢、美作、三人は今の日本の五指に入る企業の息子。残るひとりも茶道家元の名門の出。
本来なら今後の日本を動かすべき人物が、揃いも揃って“潜在犯”という訳だ。

「一係室を見てどう思いましたか?」
「は…はぁ…」

流石に上司である西田に『税金の無駄遣いです』等とは言えず、曖昧に言葉を濁す。西田の方もそれで理解したのだろう。『ああ、言わなくても結構です』と先回りされた。
部屋の特別待遇も、普通ではあり得ない監視官への暴言が許されるのも、彼等の出自が要因のひとつだと言う。

「ですが、それでは警察の…!」
「まだ先があります」
「…はい。申し訳ございません」

諭され、再びデータに目を通す。

四人の犯罪係数は平均して200オーバーと記載されていた。
常人の犯罪係数は100以外とされている。
100を越えると警告。120以上で執行対象。300を越えると“排除”の対象となる。

通常、執行官となる“潜在犯”の犯罪係数は150前後であることが多い。高いものでも精々180前後。200を越えるものはまず居ない。
理由は単純。犯罪係数が高ければ高いほど、犯罪者になるリスクが高いから。シビュラシステムにより平和に保たれた世界に、態々その平和を保つものを世に放つ理由がない。

それなのに、何故彼等は“執行官”でいられるのか?
外部の力が少なからず働いているにしても、これには無理がある。
その理由は次のデータで明らかにされた。

「………対象者の捕獲率……70%…?」
「上層部が彼等を処断しない理由は、“それ”ですよ」

西田が淡々と告げる。
執行対象者の取り逃がしは基本許されないが、それは人の行うこと。少なからず誤差が生じ、取り逃がすこともある。
だが、四人が行った案件にはそれがない。捕獲した率が100%ではないことも、残り29%は犯罪係数の上昇による“排除”によるもの故。実質的な作戦成功率に直せば99%。ほぼ100%と言っていいだろう。

成功率の高さとその容姿から、いつしか四人のことは“FLOWER4”。
略して“F4”の名が付いていると言う。
だがそこに配属された監視官にしてみれば無能者扱いの生き地獄。
それにより一係室は“地獄の入口・一丁目”という、嬉しくない名前もついてしまったそうだ。

「これは個々の能力が高いことに加え、彼等の“犯罪係数が高い”ことに起因しているのではないか?
というのが、今の上層部の判断です」
「……………」

それ故に、四人に関する“多少のこと”は黙認されているのだと言う。
更に幸いなことに、四人と波長の合う滋という監視官もいた。
ついでに言えばつくしが監視官として選ばれた理由も、その能力以上に、自らに対する選民意識の無さが大きかったという。

あっけらかんと西田に言われ、つくしが複雑な表現を浮かべる。クビにならなかったのは喜ばしいが、その最大の理由がそんなもので良いのだろうか?

もやっとしたものが無いわけではないが、“終わり良ければすべて良し”と、自分を納得させ部屋を出たところで、類の遭遇。
ちろりと横目で隣を歩く姿を見る。


花沢類。花沢物産現社長の一人息子。
『内向的だった幼少期』『人とのコミュニケーション能力の欠如』と幾つかの留意点が書かれていた中で、つくしには気になる点があった。
四人の中で、唯一“監視官”の経験者。
18歳という異例の若さでその職に着いたのだが、2年前の“事件”を機に自らのサイコパスに濁りが生じた。結果、現在の犯罪係数は220にまではね上がっている。

ー…一体何が…?

ちろちろと見るつくしの視線に気付いたのか?
ふっとつくしの方に顔を向ける。

「……なに……?」
「…あっ…いいえ…。あっ、その…。
あっ、さっき非常階段から出てきましたよね?
もしかして、健康のために階段を使っているんですか?」
「……ここ、何階だと思ってるの……」

あるわけないだろう? というように呆れ顔を見せる類に、「はは…そうですよね…」と応じる。
表情が変わるという事は、少なくとも無反応でも無感情でもないようだ。

何故、彼が監視官から執行官になったのか?
昨日言っていた『向いていない』の言葉。それは自分の経験から来るものなのか?
色々と気になり、尋ねたいことは山のようにある。
けれど…。


二人揃って一係の扉を潜れば、滋の元気な声が響き渡る。

「おはよー、つくし。ルイルイ。
今日のお茶はダージリンだよ。クローテッドクリームが手に入ったから、アフタヌーン・ティーしようよ」
「アフタヌーン・ティーって…まだ午前中ですが…。てか、ここ職場…」
「いいからいいから!」

ぐいぐいとつくしの背中を滋が押す。四人は呆れつつもいつものことなのか。然程気に留める素振りもない。

少なくとも今は、失業の憂き目を見なかっただけよしとしよう。
そう自らを納得させるつくしであった。





-PSYCHO-PASS fin-


拍手ありがとうございます♪
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Comments 4

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2018/06/14 (Thu) 20:36 | EDIT | REPLY |   
星香

星香  

鍵コメ「まー」様

ご訪問&コメント、ありがとうございます♪

お蔭さまで無事2周年を迎えることができました。
ありがとうございます<(_ _)>

お話自体は思いつきで書いてはみたのですが、F4の設定を考えるのは楽しかったです(^^)
続きは…うーーーん…
時々不意に現れるシリーズ(っぽいもの?)になればいいかな?
と、考えております。

お付き合い、ありがとうございました。
これからも宜しくお願い致します<(_ _)>

2018/06/14 (Thu) 23:53 | EDIT | REPLY |   

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2018/06/16 (Sat) 17:37 | EDIT | REPLY |   
星香

星香  

鍵コメ「木の」様

ご訪問&コメント、ありがとうございます♪

お蔭さまで無事2周年を迎えることができました。
ありがとうございます<(_ _)>

書いているうちに、あれよあれよと設定が出来上がっておりました。
…の割にはお話はなんともゴニョゴニョ…だったのですが…(^^;)
先ずは1stの連載もありますので、まぁこちらはのんびりと…という感じです。

お付き合い、ありがとうございました。
これからも宜しくお願い致します<(_ _)>

2018/06/18 (Mon) 01:28 | EDIT | REPLY |   

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