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駄文置き場のブログ 2nd season

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In The Forest 54

第54話


「鳴沢先生」

類が声を掛けると、上品なスーツを身に纏い近くの者と歓談をしていた紳士が振り返る。
年の頃は還暦を迎えたくらいだろうか?
類の姿を見ると軽く会釈をして口を開く。

「花沢社長。この度はおめでとうございます。ご盛況ですね」
「恐れ入ります」
類も同様に会釈を返す。

「…素敵なお嬢さんとご一緒ですね。そちらは…?」

類のやや後ろに立つつくしを見つけ、柔らかく微笑む。
類は、つくしの背中を押すように前に出すと口を開いた。

「私の後輩で顧問弁護士の牧野です。今回の件を担当して貰っております。
牧野、こちらは鳴沢先生。大学病院の教授をされている」

類の言葉に鳴沢が改まって一礼をする。

「それは…『お嬢さん』等と申しまして、失礼しました」
「いっ…いいえ。こちらこそ。
ご挨拶が遅れまして、申し訳ございません。牧野と申します」

つくしも慌てて礼をする。
鳴沢はかつて医大生だった頃、臨時講師をしていたゲオルグの講義を受けていたという。

「リートミュラー先生は教え方も丁寧で、人望もあった。
愛妻家としても有名だったんですよ。
牧野先生。大変ですが、宜しくお願い致します」
改まってそう言われ、つくしも「微力を尽くします」と礼を返す。

『医者で教授』と聞き、どんな気難しい人物か? 
と、一瞬身構えていたつくし。
だが鳴沢は、その肩書きに似合わず気さくで、医療に然程明るくないつくしの問いにも、丁寧に答えていく。
そんな2人のやりとりを、類は口を挟む事なく見守るように眺めている。

治験レポートで判らなかった点を聞き、納得したつくしが改めて鳴沢に頭を下げた。

「鳴沢先生。ありがとうございました」
「いいえ。お役に立てましたか?」
「はい。とても! 
…あの…自分でも調べてはいるのですが…これから話し合いを進めるうえで、判らないことがあるときは…」
「ええ。何時でも……とは、仕事柄申し上げられませんが、急患が居ないときでしたら、どうぞ」

名刺を渡しにこやかに答える鳴沢に、つくしが破顔し礼を述べる。
手渡された名刺に目を落とすと、改めてその肩書きに気付いた。

「帝都大学病院……?」
「ええ。……何か…?」
つくしが一瞬、あれっという表情をしたことに気を掛け、鳴沢が尋ねる。

「あ…。否、すみません。
実は、私の友人が最近、帝都大学病院に転職したもので…。
お医者様ではなくて、看護師なんですけど…」
つくしの言葉に鳴沢だけでなく、類も驚いた視線を向ける。

「…誰…?」
「え? ああ、優紀だよ。…って、覚えてないかな…? 
昔、一緒にカナダに行った…。
そういえばこの前は来ていたんだけど、花沢類は…」
来ていなかった、と、言い掛けてあの時見た、類と女性の姿を思い出し、言葉が詰まる。

「ゆうき…?」
一方の類は、名を聞き、そういえば友人が居たな…とは思うものの、どんな人物だったか迄は流石に思い出せない。

「…そうでしたか…。失礼ですが、お友達はどちらの所属で…?」
鳴沢からの問いに、つくしが気を取り直し答える。

「え…確か…外科勤務…? だったと思います。
以前は別の病院で、救急病棟を担当していたと聞いております」
「そうでしたか。
否、身内自慢ではありませんが…うちの外科スタッフは、なかなか優秀でして。
『外』から来られるとは、お友達も優秀なんですね」
「はい。医療のことは…申し訳ございません。
私は勉強不足で、判らない部分ばかりですが、とても優秀で、努力家な友人だと思います」

優紀のことを褒められ、嬉しくなったつくしが素直な気持ちを口にする。
そんなつくしの様子を、類は複雑そうに眺めていた。




鳴沢が別の客に声を掛けられたのを機に、2人は会釈しその場を離れる。
類特有の、人を寄せ付けないオーラのせいか、声を掛けたくとも遠巻きに眺める者が殆ど。
時折声を掛ける者が居ても、2、3、簡単な挨拶で終わらせている。
類の態度を見かねたつくしが、小声で声を掛ける。

「花沢類…いいの?」
「? 何が?」
「何が…? って…ほら、社長就任のパーティなんだし…
その、色々と顔見せとか…」
「……ああ……」
まるで今初めて気付いたかのような声を上げる。

「別に…。
プロジェクト関係で押さえておく処には、もう挨拶してある。
技術者は職人気質で、パーティとか好きじゃないみたいだから」

-それに、牧野と鳴沢教授を会わせることが出来たし。
その言葉は心に留め、口にはしない。
類の言葉に、つくしは首を傾げる。

「そうなの?」
「ん…。なんか、適当な処で引き上げるって言ってたし…」

一瞬の間。
次の瞬間、つくしが思わず吹き出す。

「…なに?」
「否。だって…そのプロジェクトの技術者の人達、まるで花沢類みたいなんだもの」
くすくすとつくしが笑う。

-適当な処で引き上げて来るから。
丁度、牧野のバイトも終わる頃だろ? そのあと食事に行こ?

大学時代、インターンで仕事をしていた類が、出たくないパーティに行く時に、常々言っていた言葉。
懐かしい、だが、決して戻せない時間。


ふと類が立ち止まり、つくしを真正面に見る。

触れたい。
抱きしめたい。
そして…
つくしのほうに手を伸ばそうとしたとき


「類」

低く類を呼ぶ悟の声が、2人の耳に届いた。


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Category - 本編 『In The Forest』(完結)

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