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駄文置き場のブログ 2nd season

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In The Forest 58

第58話


10年ぶりに見る司は、つくしの知る姿と大きく異なっていた。

端正な顔立ちはそのまま。
長い歳月は、そこに精悍さを加えている。

異なるのは、眼。
つくしの知る司の眼は、きつい割に何処かあどけなく、つくしへ向ける眼は司特有の、ぎこちない愛情に満ちあふれていた。

それが変わったのは、あの傷害事件から。
否、それは違う。
その前にも一度、こんな眼を向けられたことがある。
あれは確か…ニューヨークに1人で行ったとき。
司の冷たい言葉と向けられた眼に、いたたまれなくなったつくしは、邸を飛び出してマンハッタンを彷徨った。
つくしを見付けたのは、類。
そして…


-昔、こんなことがあったな…

驚き、動揺しているというのに、つくしの頭の何処か冷静な部分。
3人を端から見ている、もう1人の自分がそう告げる。

日本へ帰国する時のJ.F.ケネディ空港。
あの日も、目の前には司が、隣には類が居た。
今の状況も、全く同じ。
つくしは只、呆然と対峙する2人の男を見つめている。
先に口を開いたのは、隣に立つ男の方だった。



「……今日、来ないんじゃなかったの?」

類が司に最後に会ったのは、確か2~3年前。
仕事で会って以来。
目の前に立つ司は、あの頃より遙かに自信に満ち溢れている。
そんな司に一瞬驚いたものの、直ぐにいつもの表情に戻る。
司に尋ねる口調も、まるで学生が、他愛のない約束事を尋ねるかのようだ。

「…ああ…。ちょっと予定変更があってな」
対する司も同様。

つくしは固まったまま動けず、それは少し離れた処に居る滋や桜子も同様。
総二郎とあきらは近付いて来たものの、3人の只ならぬ雰囲気を肌で感じ、ある程度の間合いの処で足を止める。
周りの客は、突然来た司にお気楽な、驚きと羨望の視線を向けている。
そんな中、司がゆっくりと辺りを見回すと、再び口を開いた。

「随分盛況だな。流石は社長就任って処か?」
「…そんなご大層なものじゃないよ」

表向きは何の変哲もない会話。
なのに、つくしの身体は震え、そこを動く事が出来ない。

類に向けられていた司の視線が、何かの拍子に隣に向く。
鋭い、猛禽類を思わせる眼。
最初は、単なる類のパートナーだと思い、大した興味もなく、まるで背景の一部を見るような視線を投げる。

それが一瞬にして変わった。

「…お前…」

向けられる、眼。
敵を見るかのような司の鋭い眼光に、つくしの身体が一瞬怯む。
その刹那、つくしの視界から司の眼光が消えた。
代わりに見えたのは、黒い上質のジャケット。


「…で、今日はなに?」

前に出て、離れていた司との間合いを僅かに詰める。
司の視界から、つくしの身体が半分程隠れた。

「……親友の晴れの舞台を見に来たとは思わねぇのか?」
「そんな暇、ないでしょ?」

-態々来る目的が無ければ。
類は敢えてそれを言葉にはしない。

類と司、否、総二郎やあきらも含めた『F4』は、一般的に言う処の『親友』とは異なる。
それぞれがそれぞれに立場があり、優先するのは『個』ではなく背中に背負うべきもの。
無論、友人であることに変わりはないのだが、学生時代よりそれを熟知している彼等は、互いの領地には踏み込まない。

司の父は数年前に倒れ、現在は療養中。
現在の肩書きは『副社長』だが、実質的には社長と言って良いだろう。
その激務は、多忙だと言われる類以上なことは、容易に想像がつく。

今回のパーティ、道明寺側からは専務が出席しており、司からは祝いのメッセージが届けられていた。
多忙の折、欠席する非礼が告げられ内容は、パーティ内でも披露されていた。
それを押して日本に来る理由を『単なる友人の陣中見舞い』で流せるほど、類は凡庸ではない。
実際、道明寺側でも異例のことだったのだろう。
類の視界の端に、驚く様子の道明寺側専務の様子が映る。

類の言葉の裏に隠された真意を悟り、司の口の端が上がる。

「…そうだな…。類に話がある」
司の眼が、類を見据える。


「……明和製薬の件だ」

声を潜め呟いた司の一言。
周りが注目する中でも、その言葉を聞き取れたのは類と、そして隣に居たつくしだけだろう。
類の眼に、再び驚きの色が走る。
無論、つくしにも。

「……それは…今、ここでする話じゃないね」
言って僅かに眼を伏せる。

「この後、時間を作る。話はそこで」
「ああ」
司は軽く頷くと、踵を返す。

不意に会う、司とつくしの眼。
冷たい、かつて訪れた病室で見た時と同じもの。

司が何か言おうとしたが、それを止め、足早にその場を立ち去る。
後ろに控えていた西田が、類と、それにつくしにも一礼し司の後に続く。


つくしの足はそこに貼り付けられたかのように動けず、喉も凍り付いたかのように、一言も発することが出来なかった。


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