駄文置き場のブログ 2nd season

□ 本編 『In The Forest』(完結) □

In The Forest 5

第5話



迎えた類の誕生日の前日。
向かったのは海の近くの高台にある別荘だった。


「昔、ここに来てた時もあったんだよね…」

運転する道すがら、類が語る昔話。
父の厳しい躾に、自らの殻に閉じこもっていた頃心配をした母がここに連れて来たという。
別荘で、穏やかに過ごしているうちに、類の容態も落ち着くのだが、邸に戻ればまた元通り。
それ以後のことは、以前、総二郎達から聞いたとおりだと言う。

順調に高速をとばし着いた先には、手入れされた庭と小さな建物。
昔の西洋館のような造りのそこは、何処かノスタルジックな思いに駆られ、つくしも初めて来た感じがじなかった。


類曰く、ここは類の祖母
-母方の祖母が最も好んだ場所で、数年前他界した際、類が遺贈により受け取ったものだという。


「いつか、大切な人と来てくれって言われたんだ。だから、つくしと来たかった…」

気怠げに微睡んでいるつくしの素肌を抱きしめ、その耳元で類が囁く。
類の思いが嬉しく、つくしもそっと、その広い背中に手を回した。





類の誕生日を含めまる2日間、その別荘に滞在した2人は(類が)しぶしぶながらも帰路につく。


「……帰りたくないな……」
運転しながら、今にもUターンしたげに呟く。

「駄目でしょ? 類。明日が入社式だって言ってたじゃない」
「………インターンで仕事してるし、今更だよ……」
「そりゃそうなんだけど…」

要はつくしから離れたくない類が駄々をこねているだけなのだが、
その口調が、まるで夏休みが終わるのを嫌がる子供のようで、思わず笑ってしまう。


「頑張ってね。類。…私も頑張るから…」
「ん…」
家の前まで送ってくれた類に、もう一度礼を述べそう告げる。

「入社したら、暫くは会えないかと思う。
…研修で、3ヶ月くらいフランスへ行かされるかもしれないから。
丁度、つくしの試験の頃と被るんだけど…」

一方の類は、なかなかつくしを手放したがらない。
つくしを抱きしめ、その髪の毛を手ですきながら、つくしに、というよりは自分に言い聞かせるように言葉を放つ。

「…少し…考えていることがある。戻って来たら、話せると思うんだけど…」
「……類……?」

それまでと様子が異なる類に、つくしが身体をずらして下から類を見上げる。
何時にない、真剣な表情で空を見つめる類。
だが、腕の中のつくしからの視線に気付くと、目元を緩め掠めるようなキスをする。

「…る…類!」
「…なに? まだ慣れない? あれだけ沢山したのに?」
真っ赤になるつくしに対し、類の方は照れもせずさらりと言う。

「な…何…!」
つくしは更に真っ赤になり、ぽこぽこと類の胸元を叩く。
類は笑いながらも、降参、というように両手を挙げた。

「…全く…! はっ恥ずかしいから…あんまり言わないで…」
その態度こそが類のことを煽っているというのに、と、内心思いつつ、そっとつくしを引き寄せ、再びキスをする。

「る…類ってば…」
「ごめん。…でも居ないときのお守り代わり」

言ってその身体を抱きしめる。
つくしからの甘い香りに、腕に自然と力が入る。

「……る……い……?」

何か予感でもあったのだろうか?
いつもと異なる類の様子に、つくしも抗うのを止め、力強い抱擁に身を任せる。


どのくらいそうしていたのか…?
名残惜しく思いつつ2人の身体が離れた時、どちらからともなく唇が重なる。


「…待ってて。俺が帰ってくるまで…」
「……うん……」
つくしが類を見つめ、こくりと頷く。



この時のつくしには判らなかった。
類との再会が、ずっと先になるものだということに。


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