Welcome to my blog

駄文置き場のブログ 2nd season

Article page

In The Forest 59

第59話


去って行く司の後ろ姿を、つくしは僅かに震えながら見つめる。
動く事も、声を出す事も出来ないつくしの耳に聞こえて来たのは、やや前に立つ類の、僅かなため息。
気付いたのは恐らく、つくしだけだろう。

「……牧野……」
振り返らずに類が口を開く。

「……な……に……」
掠れるつくしの声。気付けば喉がカラカラだった。

「……嫌だったら、降りてもいい」
「………え………?」
「依頼している件。
どういう理屈かは判らないけど、司が関わってくる可能性はある」
背を向ける類の表情は、つくしからは見えない。

「それは………!」「社長」

つくしが話しかけようとしたとき、社員らしき人物が類を呼びに来る。
パーティ最後の挨拶を促しに来たようだ。
類が軽く頷き、足をそちらへ向ける。

「………花沢類…!」
遠ざかる背中に声を掛けると、その歩みが止まった。

「降りないよ」
つくしの言葉にゆっくり振り返る。

「降りないよ。私は」

僅かに掠れるものの、しっかりとした声。
類の眼に映るつくしの姿は、顔を上げ真っ直ぐに類を見つめている。

「……そう……」

僅かに、端から見れば殆ど変わらない類の表情が、僅かに緩む。
その顔は、つくしがテラスで見た類と同じ。
まるでこの大気に溶け、消えてしまいそうな程儚げなもの。

「…る…」「社長」
躊躇いがちに声を掛ける社員に「今行く」と低く声を掛ける。
そのまま壇上へ向かう類の姿を、つくしは先程と同じように、ただ見送ることしか出来なかった。





パーティが終わり、来客への挨拶を表面上だけで切り上げると、何か言いたげな父親をかわし、控え室代わりに使ったスウィートルームへ戻る。
ジャケットを放り投げ、首元のタイを緩めると、ドサリとソファーへ傾れ込む。
脱力し、天井を仰ぐような姿勢になると、瞼を閉じた。
襲ってくる倦怠感に、身体のすべてが引っ張られそうになる。
それを破るかの如く、ノック音と田村の声がドアの外から聞こえてきた。


「社長。道明寺副社長がお見えです」
「……通して」

身体を起こし、倦怠感を拭うようにシャツの首元ボタンをひとつ外すと
軽く息を整える。
中に入ってきたのは、司一人。
類の目の前のソファーに、向かい合うようにして座る。

「…何か飲む…?」
入れ替わるようにして類が立ち上がり、ミニバーの方へと足を向ける。

「否…」
「そ…」

類はペットボトルのミネラルウォーターを2本手にすると、勝手に飲んでくれ、とでも言うように司の目の前に置く。

「それで…明和製薬の件で、何を聞きたいって?」

類が最初の一矢を放った。





類の最後の挨拶でお開きになったパーティ。
招待客は次々とバンケットルームを後にし、類達役員がそれを送る。
つくしは総二郎達と合流し、最後の方に部屋を出る。

「今日はありがと」
類の前を通り掛かったとき、つくし達一団にそう声を掛けた。

「類。お前…」
「総二郎、あきら。悪いけどこの後予定が出来た。今日は行けない」

類と司の会話をはっきり聞いた訳ではないが、その『予定』が何かは想像するに安い。
了解の旨を告げるものの、何とも言いがたい複雑そうな表情を浮かべる。

「牧野」
心配気な眼を向けるつくしに声を掛ける。

「後で連絡する。牧野は当初の予定通り進めて」
淡々とした類の口調。
最低限の事だけを告げるのは、類が信頼している証。

「…判った」
まだぎこちないながらも、しっかりと頷きそう答えた。



「ごめんね。今日は帰るから…」

ここに来た当初滋と約束した内容を思い出し、そう告げる。
予定はないが、今日はとても飲んで騒げる気分ではなかった。
身体は既に、出口の方へと向かいかける。
一瞬、桜子と顔を見合わせた滋が、徐につくしの腕を取る。

「つくし。今日は滋ちゃん家に行こ?」
「え…?」
「では西門様、美作様、御免あそばせ」
「亜弓さん。またね~」
「ええ。また…」
「え…あの…?」

滋にがっしりと腕を掴まれ、そのまま連行される。
気付いた時には滋の車に押し込まれていた。

「あの…滋さん? 桜子…?
ごめん。今日は…」
「……今日のつくしを独りには出来ないよ……」
「え…?」
呟くようにはき出された滋の言葉。

「松岡様にも連絡しておきました。
今日は準夜勤のようですので、終わったら来て下さると思います」
「そんな…優紀だって大変なのに…」
「いいじゃん」
先程の言葉を打ち消すように、滋が明るく言う。

「今日は女だけだし、飲み明かそうよ。昔みたいにさ」
「昔…」

思い出す。滋のマンションに一家で移り住んだ日の出来事。
高級絨毯の上に座り込み、お菓子を食べ、たわいのない話で笑い会い、雑魚寝をした夜。
あの時は司と別れた後だった。

「…なんか…懐かしい…」
「でしょ? 決まり決まり~」
「滋さん。私、雑魚寝はもう嫌ですわよ」

言い合う滋と桜子の姿に、自然と笑みが洩れる。
彼女達の心遣いが、只素直に嬉しかった。


関連記事

Category - 本編 『In The Forest』(完結)

0 Comments

Post a comment