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駄文置き場のブログ 2nd season

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In The Forest 61

第61話


荒々しく司が出て行き、静まり返った室内。
類の拳が壁に叩き付けられる。
その拳より、心の方が痛い。

一体何が、何処で、どう狂ってしまったというのだろう?
幾ら自問をした処で、その答えはない。


すべては、あの日。司が暴漢に刺されたあの時。
司がつくしだけの記憶を失った時。
あの時から、すべての歯車が少しずつ狂ってきたのだろうか?

司とつくしとの間は終わりを告げ、類とつくしの間は引き裂かれた。
もうひとつ…

突如上半身が前に傾き、支えきれなくなった類は、その場に片膝を付いた。
蹲り、肩で大きく息をする。


「…何で……何でだよ……!」

切れ切れに洩れる、それは類の魂の叫び。

司が記憶を無くさなければ、司はつくしの手を取り、自分はそれを祝福出来ていたのだろうか?
つくしからの別れのメールを受け取った時、直ぐに帰国出来れば、こんなに苦しい思いをしなくて済んだのだろうか?

わき上がってくる、どうしようもない怒り。
つくしを忘れ、罵詈雑言を吐く司に対しての、父に対しての。
そして自らの力ではどうしようもない事
-理不尽なことに対する怒り。


類の身体が床に倒れ込む。
ぼんやり眼を開く類に、ジャケットから滑り落ちた
ポケットチーフが映る。
つくしのドレスと同じ、淡い紫色のそれ。


-駄目だよ。類。何処にも行かないで。
-類が…消えてしまいそうで…。

温かく柔らかなつくしの感触が甦る。

「……行かない……何処にも……。
……俺は…つくし……あんたと……」

ゆるゆると手を伸ばし、ポケットチーフを掴む。
まるでそれがつくし自身であるかのように、そっと口付けた。









-………重い………

何やら身体に重さを感じたつくしが目を開けると、そこは見た事のない、豪華なリビング。
この重さは何だろう? と、横に目を向けると、つくしの身体に巻き付くようにして眠る、滋の姿。
隣には優紀、その隣には桜子。
あれ程「もう、雑魚寝は嫌」と言っていたのに、結局また雑魚寝となったことに、思わず笑みが浮かぶ。


あの後、そのまま滋のマンションに連れて来られたつくし。
滋がワインやら何やらをぽんぽん開けていると、準夜勤明けの優紀も顔を出す。
「消毒液の匂いがするから…」と躊躇する優紀に
「大丈夫、アルコールだから」と、訳の判らない理屈で引っ張り込む滋。
品良く飲んでいた桜子も、酒が進むと
「大体、世の中の男は見る目がないーー!!」と大騒ぎし始め、一同、それに同調する。
最初に滋が、次に桜子がダウンし、起きているのはつくしと優紀の2人。

「つくし、大丈夫なの…?」
「うん。実はそんなに飲んでいないんだ」
滋などは「飲め飲め」言う割に、無理につくしに薦めることはしない。

「そっか…」
「それより、優紀の方こそ大丈夫? 準夜勤明けでしょ?」
「明日はお休みだから。
それに…『アルコール』には慣れました」
茶目っ気たっぷりに言う優紀に、思わず顔を見合わせ笑う。

「ね…つくし…」
「ん…なに…?」
「酷な言い方かもしれないけど…
道明寺さんとのこと、良い機会かもしれないよ」
「え…?」
優紀からでた司の名前に、どきりとする。

「あの時、道明寺さんとの間のこと…中途半端なままじゃない?
だから、進むに進めなくて、戻るにも戻れない…」
「そんな…だって、あいつはもう結婚してるし…」
「そういうことじゃなくて、つくしの気持ちの問題だよ」
優紀の静かな声が、つくしの心の一番奥に響く。

「どういう形になるのかなんてさ…私にも…誰にも判らないし
何が一番良いのか? なんて、簡単には言えない。
けど、つくしが自分で納得すれば、それでいいんじゃないの?」
「……納得……?」
首を傾げるつくしに、優紀が頷く。


優紀の言う通りかもしれない。
素直にそう思える。
消化不良のまま終わった司との恋。
だから、類と引き裂かれそうになったとき、素直にそれに従ってしまった。
あの10年前から、自分は森を彷徨ってばかり。
もう、この深い森を抜け出したい。
そして…

「そうしたら、次のことが見えてくかもよ。
花沢さんとか……西門さんとか……」
「え? に…西門さん…? なっ何で……?」
つくしが急に真っ赤になる。

「この前、つくしが先に帰っちゃったとき、あったでしょ?
あの時の西門さんの様子見てたら…何となく…ね」

優紀がふふふっと笑う。
流石、看護師なだけあり、観察眼が鋭い。

「西門さんって……だって…」
「私はさ…あの時がすべてだったの。
誰かの為にあんなに必死になったことってないよ。今でも。
…あの時が、最初で最後」

-祈ってて、つくし。
そう告げた優紀の声には迷いがなかった。

あの時に何があったのかをつくしが知ったのは、
もうずっと後になってから。
あの時、総二郎への思いを、優紀は優紀なりに昇華したのだろう。
だからこそ出る、つくしへの素直な言葉。

「ま…つくしの答えは…何となーく、判るけど…
今度聞かせてよ。つくしの中で納得出来たらね」
「………うん………」
つくしが頷く。

「……くしいぃ…こっち…こっち…」
寝ぼけた滋がむくりと起き、自らのとなりをパンパン叩くと
またぱたりと倒れる。

「…はぁい。そろそろ寝ようか」
「うん」

絨毯の敷かれたリビングに横になり、毛布を被る。
動揺した心はどうしようもないが、心強い仲間が傍に居ることで、それが落ち着く。
次へ踏み出す力になる。

-ありがとう…みんな。

声に出さずに礼を述べ、瞼を閉じた。


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