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駄文置き場のブログ 2nd season

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In The Forest 64

第64話


「号外~号外~」の声が響く中、互いに顔を見合わせていたが、つくしがハタと気付き、配られたそれを手にする。

派手な見出しの中身は、明和製薬が、道明寺ホールディングスの100%子会社になるというものだった。

明和製薬に対する外資からのM&A。
それに対抗するため、ホワイトナイトを捜していることは知っていた。
別会社との間に、その具体的案が挙がってきていることも。
だからこそ類が、条件を呑むなら、花沢物産がホワイトナイトになることを提案しようとしていたのだから。
それがここに来て突然、道明寺ホールディングスの100%子会社化。
米国式に近い道明寺が、ホワイトナイト等という甘い考えをする筈はない。
強硬策だったと容易に想像がつく。


明和製薬に謝罪を要求する。
それはつまり、道明寺ホールディングスに謝罪を要求することになる。


-お前がそのつもりなら、こちらにも考えがある。
司の残した言葉。

「……宣戦布告って訳か……」
つくしから受け取った号外に目を通した類が呟く。

「花沢類…」
「…どうする? 牧野」
つくしの方へ向き直り尋ねる。

何を、とは聞かない。
類が何を問うているのか、つくしには判る。
尋ねた類も、つくしの答えは聞く前から判っていた。

「…降りないよ」
「…そう」
素っ気ない程簡単な会話。それだけで充分だった。

「…社長…」
2人の様子を伺うように、田村が声を掛けてくる。
そろそろ出なければならない時間だった。

「…じゃ…」
「…うん…」
類が車に戻り、それが動き出す。

目の前に現れた小さな気流が、やがて大きな嵐になる。
それは予感ではなく、確証。

見送ったつくしも、くるりと向きを変えると歩き出していた。






翌日。つくしは予定通りの時間に明和製薬を訪れていた。
案の定、本社前には人だかりの山。
その中を、掻き分けるようにして入り、受付に名前と担当者名を告げる。


昨日の今日で、道明寺グループ傘下となることが決まった会社。
本来ならば打ち合わせの延期をすべきなのかもしれない。
だがそれは、つくしから言うべき事ではない。
日時の猶予が欲しいなら、その当事者から告げさせねばならない。
困っている先方が何も言わないならば、こちらは予定通りに行うだけ。

それが、つくしがこの数年間で身につけた交渉術のひとつ。
最初から喧嘩腰で相手に向かう訳では無いが、こちらも毅然とした態度で行かないと相手に見くびられる。


受付も混乱しているようで、つくしの他にも営業らしき男性が数名、受付近くのソファーで待たされている。
つくしもそれに倣いその場で待っていると、恐縮顔で受付嬢が告げる。

「あの…申し訳ございません。2名とも昨日付で子会社の方へ出向になっております」
「え…? お二人ともですか?」

思わず声を上げるつくしに、受付嬢は深々と頭を下げ謝罪の言葉を口にする。

総務の若い男性の方は判る。
荷が重いとなれば、担当変更はよくある事だ。
それこそ花沢物産のマタハラに関する件ではかなりイレギュラーだったが、途中で担当が田村に変更になった。
だが年配の研究所管理者までもが変更になったのは、何か圧力が掛かったと思わざるを得ない。

嫌な胸騒ぎがする。どうしようもなく。
それを押し隠すようにつくしが続ける。

「それで、後任の方は何方ですか?」
「そ…それが…」
「私は本日、お約束を致しております。
御社の現在の事情も判りますが、それならば日時の変更を、事前にご連絡頂くのが筋ではございませんか?」

口調を荒げることはしないが、つくしは厳しい事を淡々と告げる。
類との打ち合わせで、今日回答が貰えない場合には法的手段に出る事を決めてきた。
それは、今日の予定がキャンセルされた場合でも変わらない。

「もし本日、後任の方との打ち合わせが不可能であれば…」「牧野様」

法的手段に訴える、と告げようとしたとき、背後から自分を呼ぶ男性の声。
振り返った先に居たのは、過去二、三度見掛けただけ顔。
だが何処で見たのか、決して忘れることはない。

「あの…貴方は確か……?」
「西田と申します。現在は副社長秘書を致しております」
つくしに向かいすっと一礼をすると、つくしへIDカードを渡す。

「あの…?」
「どうぞ、こちらへ」

そのまま中へ入るように促す。
手渡されたのは、以前受付から貰った来客用IDカードとは異なる。
副社長秘書、通常とは異なるIDカード。
それだけで行く先に誰が居るのかは判る。

-引き返したい。
以前…昔のつくしだったら、そう思っていただろう。
だが…

そっと息を整え、胸に付けた天秤バッジを見る。
ここに来たのは、仕事。
依頼人は、花沢類。目的は、明和製薬の謝罪要求のため。
ぶれてはいけない。例え相手が誰であっても。

促される先へと足を向ける。
先日来た時とは異なるエレベーター。
階数表示が、通常のものより少なく、停まるのは高層階のみ。
先に乗った西田が、最上階ボタンを押す。

エレベーターが上昇する、不安定な感覚に身を委ねていると、以前同じようなことがあったことを思い出す。

以前、そうそれは、類に呼ばれ専務室に出向いたとき。

あの時は類に待たされた挙げ句、強引に食事に連れて行かれた。
類に振り回されたあの日。

-2回目なら免疫も出来るってものよね…。
つくしの口角が、ほんの少し上がる。
エレベーターの扉が開くと、つくしは顔を上げ歩き出す。

最上階フロアにある応接室。
西田がノックをし、開けたドアの先には2人の男性の姿。
1人は60代くらいだろうか?
この案件に関わってから、明和製薬を調べた時に見掛けた顔
-明和製薬社長。

そしてもう1人。
つくしが忘れたくても忘れられない顔が、そこにあった。


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