駄文置き場のブログ 2nd season

□ 本編 『In The Forest』(完結) □

In The Forest 6

第6話



4月に入り、つくしは大学4年に、類は花沢物産役員として入社し、互いに多忙な日々を送っていた。
類が言ったとおり、入社の翌日からフランスへ飛んだ類は、1月経つというのに、未だ日本には帰っては来ていない。

とはいえ、連絡のメールは毎日のように届く。
『勉強はどう? 無理しないで』『夜遅くのバイトは入れちゃ駄目だよ』
という、つくしを気遣うものから
『もう帰りたい』『つくしに会いたい』『仕事、辞めちゃおうかな?』
という、いつもの(?)我が儘まで。

時折耐えきれなくなった類が、つくしの時間に合わせ電話をしてくる。

「類、眠る時間、無くなっちゃうよ」
そう言って早く休むように促すのだが

『つくしの声が聞けないと眠れない』
と言われてしまえば、つくしに否とは言えない。

ぽつぽつと、互いの近況を話す。
日本ではゴールデンウィークに入っているのだが、類の仕事には関係ないとのこと。
本当であれば、休みを利用してつくしにフランスに来て欲しい処なのだが、
司法試験まで1月を切っているつくしに、無理を言うことは出来ない。

離れていることが淋しいとは思うのだが、不思議なくらい心配は無かった。
それくらい思い合っていたから。

-あの日までは…



ゴールデンウィークも終わり、いよいよ試験まで数日というある日。
自宅で勉強にいそしんでいたつくしの元に、来客が訪れる。
人が尋ねて来る予定もなく、まさか類が帰って来た…? と喜びドアを開けた先に居たのは、
類ではなく、類に面差しが似た男性。

誰か? と尋ねなくても、それが類の父親だと直ぐに判った。
その表情が、決してつくしに好意的ではないという事も。

家に招き入れた途端、類の父は、楓と同じ事を口にする。
その独創性のない言葉に、何故資産家というのは皆同じ事を言うのだろう?
そう思うと可笑しくなり、つくしの顔に歪んだ笑みが浮かぶ。
目の前に差し出された零が幾つも並んだ小切手を、目の前で破り捨てた。

-待ってて。俺が帰ってくるまで。
その言葉を信じて。




類の父親が来て数日後、市販されているタブロイド誌に類の記事が載る。

『花沢物産後継者 花沢類 婚約間近か!?』

面白可笑しく書かれた記事と、ピントのぶれた写真には、
フランスのパーティで連れ添う類と女性の姿。

それを見て、多少のショックはあるものの、まだ大丈夫だった。
掲載される前に、類から連絡が入っていたから。
どうしてもパーティに出ることになったから、静にパートナーを頼んだこと。
その静は、弁護士仲間のフランス人と婚約をしており、今年の6月下旬に挙式があること。
つくしの試験後、合格発表まで間があることから、類と一緒に式に参加して欲しいと、静が言っていたことを。

載った写真は不鮮明で、静のようにも見えるが違うようにも見える。
雑誌には花沢物産と近く大型取引のある会社の社長令嬢ではないか?
と、ライトに書かれている。
所詮、招待客が誰なのかも知らされていない、三流誌のゴシップネタ。
まだ、そう思える余裕があった。



だが、帰って来た進が「もう大学辞めなきゃならないかも…」
と、言ったときには、流石のつくしも青くなった。

進はつくしと異なり、都内の私立大学に通っている。
牧野家の経済状況ではとても無理なのだが、成績優秀な進は特待生となり学費免除。
残りは奨学金を利用し、大学へと進学することが出来た。
その特待生制度を打ち切ると言うのだ。
勿論、成績次第で免除は打ち切りなのだが、進が2年に上がるときにそんな打診は受けていない。
実際、単位は何一つとして落としてはいないし、専攻分野はトップを保ってもいる。
大学側からの一方的な言い分に、つくしが詰めより、
場合によっては法的手段も辞さないことをちらつかせると、理事長が重い口を開く。

進の特待生制度を打ち切らないと、大学から花沢物産への就職はないとの圧力が掛かったとのこと。
大手企業のひとつ、花沢物産への就職が零となれば、大学の立場がなくなる。

-大企業の頂点に立つ人間は、思ってもみない方向から攻め込む。
いつか類が言っていた言葉。

司の時と全く同じ。
否、関係のない大学生を巻き込んでいる分、タチが悪い。
仮に類に言い進の学費を借りたとしても、今度は大学を辞めさせろと圧力を掛けてくるだろう。
進一人を何とかすれば済む問題はない。


-気が変わった時には秘書に連絡を。
そう言って渡された名刺。


震える手で電話を掛ける。
繋がった、秘書という男に告げた。

『類とは別れる』と。


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