駄文置き場のブログ 2nd season

□ 本編 『In The Forest』(完結) □

In The Forest 69

第69話



指定された場所に行き名を告げると、直ぐに中に通される。
久子は既に来ており、つくしの姿を見ると軽く一礼した。

「お呼び立て致しまして、申し訳ございません」
「…否…」

つくしも礼を返す。
久子は手元のバッグから名刺を取り出し、つくしに渡した。
書かれてるのは、花沢でも道明寺でも美作でもない大手外資系企業の名前。
少々意外に思っていると、久子が口を開いた。

「類さんの、母方の従姉妹になります。血縁関係はございませんが…」
「……はい。存じ上げております」

親族に関しては遺言作成時に、類の祖父母の遺産相続時に関する書類を預かっている。
その中に親族図表が添付されており、久子の立場も記載されていた。

「…そうでしたね。
類さんの顧問をなさっているのですから…」

悠然と微笑む姿は、以前つくしが通りの向こうで見掛けたものと同じ。
先日のパーティでも花沢物産関係者と談笑している姿を目にしている。
更には時折「やはりあの方が、新社長のお相手か!?」
という噂話も耳にしていた。
その人物が、自分に何の用だというのだろう?

「あの…それで、お話とは…?」
複雑な思いを抱えたまま、つくしが尋ねる。

「今回の道明寺さん…否、明和製薬との一件、先生のお力で、早々に和解して頂きたいのです」
「は…い……?」

予想していた事と異なる事を言われ、思わずつくしが聞き返した。






類を乗せた専用車が本社前に着くと、朝よりは少なくなっていたが、未だにマスコミは待ち構えている。
フラッシュがたかれる中、終始無言、無表情で通り抜け社内に入る。
会議まではまだ30分程時間があった。
空き時間で残務を片付けようと自室に向かう類に、第二秘書が声を掛ける。

「社長。…会長がお呼びです」
「………どうせ会議で顔会わせるからいいよ」
「え…? ですがその……」

川島の代わりに第二秘書になった大森は、対外的な対応完璧だが、類のマイペースな物言いにはまだ慣れて居ない。
しどろもどろする大森を横目に、社長室ドアに手を掛けようとしたとき、再び別の声に呼び止められた。

「社長。先程から会長がお待ちでございます」

軽く一礼し類を促すのは、現在会長付となった、元社長第一秘書の鍋島。
口調では類に対し礼を取るものの、無言の威圧感で攻めてくる。
ここで無視しても良かったが、後々面倒と、会長室へ足を向けた。

鍋島がノックしドアを開けると、中には悟一人。
類が来たのを確認すると、鍋島を下がらせた。

「…何かご用でしょうか? 
会議まで済ませなければならない残務があるのですが」

『ワーカーホリック』という単語と縁遠い類から出たとは思えぬ言葉。
僅かに眉を顰めた悟が徐に口を開く。

「長崎先生に依頼をした。道明寺側とは早々に和解しろ」
「…仰る意味がよく判りませんが」
「この大切な時期に何を言っている」

手にした新聞を机の上に投げ付ける。
一面を飾る、道明寺から花沢への名誉毀損による訴え。
詳しい内容までは判らないが、恐らく道明寺寄りに記載されているのだろう。
類は手に取る事すらしない。

「…先程、磯間の藤沢社長と打ち合わせをしております。
『これまで通り何も変わらず』ですよ。
他の主立った処はすべて確認済みです。
プロジェクトには何の問題もありませんが?」
「これだけの醜聞を書き立てられられ、何も無かったように過ごせると思うのか…!」


平常を装うとする悟だが、語尾が荒れるのは否めない。
垣間見える、父の動揺の理由。
20年以上前に起こした、若かりし頃のミス。
それにより会社は海外ファンドの餌食になりかけ、失った利益と信頼。
それ以後、鉄壁の経営を敷く悟の、唯一の汚点。

つくしの言葉では無いが、ミスをしない人間はいない。
失ったものは少なく無かったのだろうが、最悪の事態は避けたのだ。
ミスより、その後のフォローが一番大切。
それは経営学だけでなく、すべてにおいての基本。


それなのに、悟がこれほど拘る理由は只一つ。
自らの出自。正確には祖父の。
名門と言われた花沢の後継者が妾腹腹。
下手に持つ選民意識から来る後ろ暗い部分。


類が持っていた、父親に対する感情。
子供の頃に感じたのは畏怖。只、父が厳しく、恐ろしかった。
自らが成長するに連れ、それが嫌悪に変わる。
自分を駒のように扱う父に対して。
そして今は…何も感じない。
強いて上げるとすれば、憐憫に似た感情があるだけ。


「………牧野のこと、どう思いますか?」
突然の話題転換に、悟が怪訝そうな表情を向ける。

「何を言っている? 今は…」
「その牧野が…!」

話を元に戻そうとする悟の言葉を遮る。

「貴方が、取るに足らないと思っている牧野が、貴方が何より大事にしてきた、この会社の窮地を救ったのですよ」
「何を馬鹿な…」
「家柄だの何だの、下らない外聞で塗り固めた貴方の愚息によってキャンセルになるところだったプロジェクト。
それを止めたのは彼女です。
彼女の持つ人柄に惹かれた人が、また別の人を動かした」
「…………下らん……」
「下らない…? そうでしょうね。
それに気付かず、牧野を金で片付けようとした貴方なら、そう言うのでしょうね」

類の言葉は何処までも冷ややかだった。


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