駄文置き場のブログ 2nd season

□ 本編 『In The Forest』(完結) □

In The Forest 71

第71話



会議を終えた類に、来客が待っていることが告げられる。
予定では1時間ほど業務決済をし、その後取引先との会食。
来客の予定は無かった。

また面倒な相手か…と見た目判るほどにため息をつき自室のドアを開けると、応接用ソファーに悠然と足を組んで座るのは、親友の一人。

「…邪魔してるぜ…」
「来てたんだ。総二郎」

総二郎とまともに顔を付き合わせるのは、呼び出された時以来。
あの時は物別れに終わったものの、その後の就任パーティでは普段通り。
今も確執を持っているようには見えない。

これが、総二郎らしい処。
類も同様に、普段通りに総二郎の前に座る。
運ばれた紅茶をひとくち口に含んだ処で、総二郎が言葉を発した。

「…思ったより元気そうだな」
「………そう……?」

応じる類はいつも通り素っ気ない。
その様子に、総二郎が僅かに口の端を上げると、徐に立ち上がる。

「…じゃあな。帰るわ」
「…なにしに来たの?」
「…別に…。丁度この先で仕事があっただけだ…」
ゆったりした動作で、ドアまで歩く。

「もっと落ち込んでるんだったら、面白かったのによ。
普段通りじゃ、ここに居てもつまらん」
「なにそれ…?」

総二郎らしい軽口でそう言うものの、そこに見えるのは安堵の色。
応じる類にもそれが判るからこそ、その背中に声を掛ける。

「俺じゃ無くてさ…」
「…あ?」
首だけ器用に類の方へ向ける。

「司の方に行った方が良かったんじゃ無いの?」
「は…? 馬鹿言え。俺はもう二度と、顔に絆創膏を貼るのは御免だ」

苦々しげにそう告げる総二郎の言葉に、思い出すのは昔のこと。
司とやりあったという現場、そのものには居なかったが、自慢の顔を傷だらけにした姿が甦り、思わず吹き出した。

「……何なら見たかったな…それ……」
「……お前、嫌な奴だな…」
笑いのツボに入った類にぽつりと総二郎が呟く。

「…ま…いいけどよ…。ホントに帰るぜ」
「総二郎」
ドアノブに手を掛けた総二郎を、再び呼び止める。

「俺は、司と争いたい訳じゃない」
「だろうな」
言われる事が判っていたかのように即答する。

「今回、俺は傍観者だ。どちらにも付かない。…精々、気張れよ…」

ひらひらと手を振り立ち去る総二郎。
パタンとドアが閉まった処で、類は気を取り直し立ち上がる。
書類の確認を…と机に向かおうとした所で、類の上半身が傾いだ。


締め付けられるような痛みが襲う。それまでの比では無い程に。
ジャケットの内ポケットを弄り、飲み慣れた錠剤を口に含んだ。
落ち着かせるように、肩で息をする。


-まだだ…まだ…早い…。あともう少しでいい…だから…

「……信じてるよ…あんたを……」
この場でその言葉を聞く事は決して無い相手に向かって、そう呟いた。






久子との待ち合わせ場所を出てから時計に目をやると、間も無く17時になる頃。
今日の予定は特に無かったため、直帰しようか…?
と、スマートフォンに目を向けると、山のような着信履歴。
相手は滋からだった。
折り返そうか迷い、先ずは事務所に連絡を入れると、香取のぐってりした声が聞こえて来る。

『牧野先生…何とかして下さいよ……』
「え? どうしたの? 何かあった…?」

またマスコミかと思い、身体に緊張が走る。
だが、香取から出るのは違うものだった。

『もう2時間前から電話攻撃です。
「つくしは何処に行ったんだ-!」って…
打ち合わせで外に出ています、って都度答えているんですけど、全然聞いて貰えなくて…』

どうやら携帯に出ないつくしにしびれを切らした滋が、事務所に再三電話を掛けて来たらしい。
香取や美和が幾ら言っても駄目で、今大体どの辺につくしが居るかは伝え、宥めていたという。
軽く苦笑しながら滋に連絡する旨を告げ、他に何か無かったかを尋ねる。
その他の急ぎはないとのことで、そのまま直帰する旨を告げると、急いで滋へ電話をした。

『もしもしっ! つくし!?』
ワンコールが鳴るか鳴らないかの短さで、滋の声が耳元に広がる。

「う…うん。そうだけど…?」
『今どこ!?』
「何処って…」

辺りを見回し、目印になる場所を告げると直ぐに行くと告げられ電話が切れる。
どうしたものか…? と悩んだのも束の間。


「つくし…っ!!」

背後から呼ばれ振り返ると、路肩に止めた車から降り、もの凄い勢いで駆けて来る滋の姿。
つくしが滋の名を呼ぶ前に、その滋にしがみつかれた。

「…し…滋さん」
「つくし…。ごめんね…つくし……」

しがみつき、泣きながら詫びの言葉を告げる滋。
道を歩く人々が、何事か? という目を向けるというのに、滋の手が緩まることはない。

「ちょ…ちょっと…落ち着こうよ…。ね?」
「……ごめんね………」
子供のように泣きじゃくる滋の背中に、そっと手を置いた。




道の往来で一通り泣いたことで落ち着いた滋は、そのままつくしの手を引っ張り、一軒の店に入る。
近年評判になるその多国籍料理の店は、どうやら大河原の関連らしい。
奥のVIPルームに通される。
飲み物が運ばれ、お互い一口飲み喉を潤した処で、滋が口を開いた。

「…ごめんね…つくし」
「あの…? 滋さん。さっきから何謝ってるの…?」

ここ最近、滋に謝られるようなことをされた覚えは無い。
強いて挙げるとすれば、先程、人前でしがみつかれ、泣かれた事だ。
首を傾げるつくしに、ぽつりと呟く。

「…司…」
「え…?」
「…明和製薬側からの名誉毀損の件、見た。あの黒幕は司だよね」
「……う…ん…。まぁ……」

『黒幕』という表現はある意味正しくはないが、概ね事実。
はっきりと肯定するも憚られ、曖昧に言葉を濁す。

「………私のせいだよ…。あの時…あんなことしなければ……」

噛みしめるように滋が呟いた。


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