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駄文置き場のブログ 2nd season

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In The Forest 73

第73話


静まり返った法定内で、まずは原告側の起訴内容が述べられる。
向かい側に座る原告代理人である弁護士は、大手法律事務所の代表弁護士。
道明寺家の専属であるその人物の名は、つくしも当然知っており、百戦錬磨という噂も聞いている。

起訴内容は、明和製薬に対する類の要求が、会社の名誉毀損にあたるというもの。
曰く、当時ゲオルグが明和の社員であり、薬に関する権利は、当然ながら会社にあること。
また、薬はすべての人間に万能な訳ではなく、そのことは患者及び患者家族の了解を取っていた事を述べる。
そして関連書類として、実際に薬が使用された際に取り交わされる承諾書を提示した。

「では被告人代理。答弁を」
「はい」

代理人としてつくしが立ち上がったとき、僅かに傍聴席の空気が揺れる。
特に、左腕に腕章をした報道陣席側から。
その理由は、つくしにもある程度想像は付いた。


花沢物産の顧問弁護士は、向かい側に座る弁護士軍団と同じく大手事務所。
その社長である類の弁護に付くのが、無名事務所の弁護士。
それがまだ、つくしの隣に座る志朗であるなら理解出来る。

大手弁護士事務所の話を蹴り、議員一家を飛び出してマチベンになった志朗は、弁護士会の中では有名人でもある。
決して声を荒げたり動揺を見せたり、あるいは強引な話の持って行き方をしないのだが、気が付けばそのペースに引き込まれ、和解のテーブルに付いている。
過去にも数度、傍聴券が必要となる裁判を引き受けたこともあることから、報道関係者の中には志朗を知る者も居た。

なのに、答弁を述べるのは無名の新人。
場がざわつく…まではいかないのだが、奇妙な流れが漂う。

-花沢物産側はやる前から裁判を放棄しているのか…?
とでも言うように。
実際、向こう側に座る弁護士がつくしに向ける目は、『引っ張り出されて可愛そうに』とでも言いたげ。
ライバルにすら見て貰えていない。


テーブルに置かれた答弁書を持つ手が僅かに震える。

-しっかりしろ。今、何のためにここに居る。
そう、自らを叱咤するのだが、手の震えが止まらない。
なかなか声が出ないつくしが、横に座る男からの視線を感じる。
僅かに視線をそちらに向けると、ビー玉のような瞳がこちらを見据える。


反らす事無くつくしを見つめる類の瞳。
それは、ここに居る誰より信頼に満ちている。

-ここは任せた。
そうつくしに告げているかのように。


手の震えが止まる。
先程まで感じていた、場の奇妙な空気感が消える。
記者や、相手弁護士の同情的な視線も気にならない。


-任せて。
そう告げるように、軽く頷く。


「被告人代理」
立ったまま黙っていたつくしに、裁判長が催促をする。

「はい」
顔を上げ裁判官の方を向くと、答弁書に書かれた内容を読み上げた。








第1回口頭弁論は、つくしの答弁書の読み上げの後、幾つか議論にはなったものの結局は平行線。
第2回口頭弁論の期日が10日後と定められ、閉廷された。
と、同時に記者達が一斉に外に出る。
一般席に座る傍聴者達も一斉に「どちらの言い分が正しいのでしょうかね…」等、思い思いに口にする。
つくしは未だ緊張感が抜けぬまま、手にしたファイルを鞄にしまった。

「お疲れ様」
隣に座る類から声が掛かる。

「あ…お疲れ様…」
「…第1回としては先ず先ずだったんじゃないの…?」
「…そう…? …あ…でも…マスコミがどう出るか…」

自分で言葉にして気付く。
類の目的は、勝つ事では無い。
病気と薬に関する関心が高まる事。そして最終的には新薬の認可。
単に類と司との対決だけを煽られるだけなら、意味が無い。

「…ごめんなさい。今日、その辺りの事を重点的に言えなかった…」
「牧野は外野を気にしなくていい。思うとおり進めてくれ」
「…うん…判った」

言外に任せろと言う類に、素直に頷く。
マスコミの動きは気になったが、ここは類を信じる事にした。

「…先に出る」

ぽつりと告げ、志朗に目礼をすると、足早に法廷を後にする。
待ち構えていた報道陣が口々に類に質問するが、来た時同様、終始無言のまま通り過ぎた。



「シロ先生、そろそろ……えっ?」

出ようとするつくしの視線の先に、優紀と桜子の姿が見える。
思わず声を掛けようとしたが、廊下にまだ居る報道陣が、何か聞きたそうにこちらに視線を向けている。
今ここで、2人に声を掛けるのは得策では無い。

向こうもそれを判っているのか、桜子が手にしたスマートフォンを指差し、合図をする。
つくしがそれに気付くと、頷き優紀と共にエレベーターの方へ向かって行った。

「先生。ちょっとすみません…」
断り、スマートフォンの電源を入れる。

途端に震える携帯。
入って来たのは、心配をする総二郎、あきら、滋から。
そして先程居た桜子と優紀。

『傍聴券が2枚取れましたので、私と松岡様が来る事になりました。
他の方ですと…変に目立ちますからね。
今後も傍聴する予定ですから、ご存分に腕を振るって下さいませ』

『つくし。何も出来ないけど、ここで見てるからね。
…頑張って』

簡潔に書かれた文章に、心底つくしを思う色が見える。
傍聴券の倍率から考えても、それなりの人数が並んだのだろう。
苦労して手に入れたそれを、誰が行けば一番目立たないかを考え、2人に託した総二郎達。
その桜子は昨日まで海外で、今朝帰国と言っていた。
優紀にしても昨夜は夜勤だったのか、目の下が真っ黒になっていた。


-ひとりじゃない…
共に戦うわけでは無いけれど、私は決してひとりじゃない。
そう思うと胸が熱くなる。


「…行きましょうか。牧野先生。
第2回迄にやっておく事が結構ありますからね」
「……はい。シロ先生」

うっすらと目に浮かんだものを慌てて拭うと、笑顔でそう答えた。


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