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駄文置き場のブログ 2nd season

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In The Forest 74

第74話


気に入らないのは、最初からだった。
暴漢に襲われ、瀕死の状態を逸し、その後、病室で休んでいたときに現れた時から。

貧相な女だと思った。何の特徴も無い女。
なのにその姿を目にすると、苛つく。
感情が動く。どうしようもなく。
それが何故か判らぬまま…。
そして目まぐるしく変わった環境に、日々の多忙さに負われ、忘れていた。


それが、あの女
-つくしに再会し、戻った感情。
苛つきと共にある高揚感。
面白れぇと、上等だと思った。

なのに今日、つくしが類と共に現れた時、その高揚感が消える。

第1回口頭弁論の間中、司の視線は真正面に座る2人の姿にあった。
最初、若干萎縮していたつくしが、類の姿を見て軽く頷く。
時間にしてごく僅か。
2人の行動は殆ど動かないため、当人達以外に気付いたのは、恐らく司只一人。


-今日だけでは無い…以前…何処かで…?
その行動を捉えた時、感じた既視感。

何処で…と、思い出そうとすればするほど頭に霞がかかる。
霞の中に生まれるのは、苛立ち、怒り、そして…嫉妬?
何とも言えない敗北感。
それは裁判後、何やら話す2人の姿を見た時も同じ。


そんな考えが浮かび、まさか…と、頭を振った瞬間、その奥に痛みが走る。


「……ッ……」

僅かに顔を顰めると、向こう側の2人から顔を背け足早に法廷を後にする。
建物の外には多くの報道陣が居り、出てくるのを待ち構えていたが、司がひと睨みするとざわついていた辺りに静けさが走る。

そのまま用意された車に乗り込むと、助手席に座る西田が予定を告げてきた。
先程感じた痛みはまだある。

米国に居た時から時折、原因不明の頭痛に苛まれていた。
医師に言わせれば10年前、暴漢に襲われた時の事が原因のひとつらしい。
医師は静養と専門的な治療を薦めていたが、ワーカーホリックの司にとって、静養も治療も受け入れる筈が無い。
大抵は鎮痛剤で、時折僅かに仕事を調整することで抑えていた。

だがここ最近、日本に来てから今日、痛みを感じるまで頭痛が起きることはなかった。
理由は判らないが、ないならない方がいいと、特に気にも留めていなかった。
それが、今日に限って感じる痛み。
米国では常備薬と化していた鎮痛剤を口に含む。


元々はアジア中心のプロジェクトのために帰国をした司。
明和製薬との専用契約はついでて、簡単に片付く筈だった。
それが、予定外の製薬会社買収だけでなく、名誉毀損による裁判。
楓だけでなく他の役員からも、司に対する批判が出始めていた。

経済誌を見る限り、花沢物産側は今回の件で、多少のダメージはあるものの、一番肝心な海底資源プロジェクトは順調に進んでいる。
そのこともあり司としては、アジアプロジェクトを落とすわけにはいかない。
只でさえハードワークなのに、輪を掛ける過密スケジュール。

-…流石に…疲れが出たか…

僅かに上を向き、軽く目を閉じる。
次の目的地に付くまでの僅かな時間が休息だ。
その瞼の裏に先程見た姿が浮かぶのを打ち払うように、革張りのシートに深く背を預け、身体の力を抜いた。





その後、第2回答弁までの間、テレビを始めとするマスコミは、日本の二大企業の対決をはやし立てる。
ワイドショーは面白可笑しく、ニュース番組やドキュメンタリーなどでは、このことによる経済的損失と、その補填に関することが中心。
焦点となっている病気と薬品に対しては、殆どが放送されない。
恐らくは明和製薬側の規制
-薬品に重大な欠点があることを知られないため。
に、仕組まれているのだろう。

弁論をどうするか…?
悩んでいたつくしだったが、意を決すると、類に確認の連絡を入れる。

「タイミングは牧野に任せる」
一見すると無責任にも聞こえる類の返答。
だがつくしには判る。そこにあるのは、絶対的な信頼。
判ったと短く伝えると、電話を切った。





10日程経過した第2回口頭弁論。
報道者の数も、傍聴希望者の数も第1回の時よりも増えている。
類と司の姿を捉えたカメラが、多くの光を放つ中、第1回の時と同様、無言、無表情のまま建物内部に姿が消える。


役者が揃い、裁判が始まる。
原告側である明和製薬は一貫し、主張を曲げない。
類の謝罪要求は不適切であると、その撤回と名誉毀損による損害請求をし続ける。
弁護士は声を荒げるような真似はしないが、その言葉にブレが無く、席に座る一般傍聴人の中には、うんうんと頷くものも多い。



「被告代理人」
裁判長の言葉に、つくしが立ち上がる。
手にしたのは、書類として出した、ゲオルグが作成した治験データ。
それが、明和製薬と比較されており、明らかな違いがあることを述べると、先方弁護士から反撃の声が上がった。

「その治験データは、国内外の、然るべく研究機関ではなく医師、一個人によるもの。信憑性に欠けます。
第一、その製薬に関しては聞いた事がございません」

さも当然だ、と言わんばかりの弁護士の声に、つくしが今だ…! と、類に目を向ける。
類が僅かに頷くのを確認すると、つくしが口を開く。

「裁判長、新たな関連書類を提出致します」
一通の定形外封筒を取り出すと、裁判長の処まで歩き差し出す。

「この書類は…?」
「はい。治験データで使われた、故・ゲオルグ・リートミュラー氏が研究・開発をした新薬の処方箋です」

その言葉に法廷が一瞬ざわめくが、つくしは構わずに続ける。

「これは、リートミュラー氏の意思を汲んだ本訴被告が、遺贈により正式に取得したものです。こちらがその遺贈に関する書類です。
本訴被告はこれを一般に公表し、医療の向上に貢献する事を願っております。
ですが、この新薬も決して万能ではございません。
まだまだ開発研究が必要なものと考えられます。
それ為には本訴原告側がかつての過ちを正し、その謝罪を正式に行わなければ現薬品の二の舞になる。
本訴被告は、そう考えております」

つくしが告げる言葉に、迷いは無かった。


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