Welcome to my blog

駄文置き場のブログ 2nd season

Article page

In The Forest 75

第75話


本訴被告側からの書類提出により、第3回口頭弁論の期日が述べられ第2回口頭弁論が終了した。
第1回の時と同様、記者達は一斉に外に出て行き、一般傍聴者は思ったことを口にする。
だが前回と明らかに異なるのは、口にする内容が
「どちらが勝つか?」より「その病名は何だろう?」の方が増えたこと。
それを耳にしたつくしが、僅かに安堵のため息を洩らす。

「…良かったですね。牧野先生」
「はい。少し安心しました。…あ、シロ先生。時間が…」

つくしが手元の時計に目を落とす。
志朗は今日、別件でラウンドテーブル法廷が入っており、その開廷時間まで、あと30分程。

「そうでした。では、花沢さん。今日はこれで…」
類に軽く一礼するのと、足早に立ち去る。


傍聴人や原告席側にも既に誰も居ない。
廊下に居た人々も既にエレベーターで移動したようで、閉廷された内部に残るのは類とつくしの2人。
何となく連れ立って廊下に出ると、とっくに外に出ていると思われた司の姿がそこにあった。





類とつくし。
2人が並んで歩く姿を見たのは初めてではない。
それこそ、この裁判が始まり、出廷する時には2人揃って入って来る。
パーティの時、類の隣に居たのもつくしだった。

だが…それよりももっと…
何処かでこの2人の姿を見た気がする。
2人でいるその姿…何処で…?

思い出そうとすればするほど、記憶に霞が掛かる。
そして起こる痛み。
頭痛だけではなく…もっと深い…何か?


迷いにも似た痛みを打ち消すように、司が口を開く。



「どういうつもりだ? 類」
「……何が……?」
「ふざけるな。…治験? 新薬だと…?」
「…買収目的ではないと、最初に言ったはずだ」

それだけ告げると、やや後ろに立つつくしに目線を向け、言外に『行こう』と促す。
歩き出す2人が、段々と司に近付く。

変わらない無表情の類と、何とも言いがたい表情のつくし。


-何処かで…こんなことがあった…? 何処か…昔にも何処かで…
今、ここで見ている風景が、霧の向こうの風景と重なる。


-こっちのセリフだよ。おまえこそなにやってんだよっ!
-約束。ちゃんと守って。絶対に守ってね。わかるよね。

小さくなる2人の後ろ姿。
どれ程の思いでそれを眺めたか…

引き留めたかった。
類と行くなと言って、抱きしめて…そして…


-何を言っている…?
今の、冷静なもう1人の自分がそう告げる。
そうだ、そんな思いなどあるはずも無い。

なのに…
痛む。頭が。そして…何よりも心が。


無言のまま、類とつくしが司の横を通り抜ける。
小さくなる2人の後ろ姿。
あれは…確か…空港で……?


-どうなってもかまわない。もう離れるのはいや。
涙に濡れた、黒い大きな瞳。
あれは……?



「ま…きの…?」



司から洩れた呟きに、類とつくし、2人の足が止まる。

「……道明寺……?」
司が記憶を失って以来、つくしは名前を呼ばれた事などない。
恐る恐る振り返ると…

頭をかきむしるようにして手をやる司が、目の前で倒れる処だった。





「司…?」「道明寺…?」

1人の人間が倒れ込む大きな音に、何が起きたのか判らなくなる。
が、それも一瞬のこと。
慌てて2人が駆け寄り声を掛けても、司の反応は無い。

「道明寺…っ!?」
司を揺すろうとしたつくしを手で制し、懐からスマートフォンを取り出す。
只ならぬ様子に、少し離れていた司のSPが、倒れている司を捉え、駆け寄ってきた。

「司様…?」「動かすな」
通話口を押さえ、短く類が告げる。
はい、はい、という類の声だけがその場に響き、その後、通話を終えた類が、つくしとSPに向い告げる。

「帝都大学病院の鳴沢教授に連絡が付いた。専門医が今居るそうだから、連れて行ってくれ」
「…しかし…」
「ここだと道明寺系列より、帝都の方が近い。
病院表口ではない場所に、医師を待機して貰う」
SPの1人が否定的な声を上げるが、類の言葉は有無を言わせない。

「牧野」
「え? な…なに?」
急な出来事とSPとのやりとりに、はらはらと見つめていたつくしだったが、類から声を掛けられ、そちらに向き直る。

「牧野は一緒について行ってくれ。鳴沢先生、覚えてるな。
司の状態を簡単にしか伝えていない。牧野の方から説明してくれないか?
…10年前の事」
「あ…」

司の傷害事件は有名だが、記憶障害が起きていることは一般的に伏せられている。

「でも…」
「…表の連中は、俺が引きつける。少し遅れて降りてきて、車を裏口に回せばいい」
「花沢類…」
「頭をあまり動かすなよ。
…後で…連絡する」

それだけ告げると、足早にエレベーターホールに向かう。
エレベーターが到着した軽い音が、つくしの耳にも届く。


類の告げる事は正論。
司の息はあるものの、意識は無い。
頭を押さえていたことから、一刻の猶予も無い。
また、事実上財閥トップの司が倒れたというのは一大スキャンダルにもなる。
今、ここで大きく報道される訳にもいかない。


軽く顔を叩くと、呆然とするSPに毅然と告げる。


「急ぎましょう。手を貸して下さい」


関連記事

Category - 本編 『In The Forest』(完結)

0 Comments

Post a comment