駄文置き場のブログ 2nd season

□ 本編 『In The Forest』(完結) □

In The Forest 76

第76話



エレベーターを降りた類の姿に、表に居る報道陣だけでなく、ホールに居る一般傍聴者達の視線も一斉に集まる。
何時もであればドアをすり抜け、足早に待機してある車に乗り込む類だが、今日に限って丁度マスコミの中央辺りでピタリと足を止めた。

「社長…?」
怪訝そうに訪ねる田村や、周りのSP達も無視し、マイクを向ける報道陣のひとりに対し口を開く。

「いま、何て言った?」
「え…っ…あ、あの、その…。
今回新たな書類が提出されましたが何故、今だったのでしょうか?」

口々に質問はしていたものの、また無視されると思っていた記者。
それが向き直り、逆に尋ねて来たことに驚きを隠せない。

「それも戦術のひとつだから。…聞きたいのはそれだけ?」
類の言葉に、集まった報道関係者から我も我もと声が上がる。
囲むようにして出来る大きな人だかり。
通り過ぎようとしていた無関係の人達までもが、類のほうに目を向ける。

口々に尋ねる報道陣に対し、一言二言返しながらも、視線だけは地方裁判所内部に向ける。

丁度2人の男に抱えられるように司が運ばれる姿と、それに寄り添うように歩く、つくしの後ろ姿が見える。


何とも言えぬ痛みが、ちくりと類の胸を刺す。

「花沢社長。帝京新聞の者です。こちらの質問、宜しいでしょうか!?」
「……なに……?」

矢継ぎ早に続けられる質問に、突っ慳貪に、けれと一言ずつ答えて行く。
それは、つくしの姿が建物の奥、裏出口に消え、しばらくの時が経過するまで続けられた。





「頭を支えて頂けますか?」

司と同じ車に乗り込んだつくしに、SPの1人がそう告げる。
司の身体は広い車内の座席に横たえられているが、意識が無いため何かの拍子に身体が座席から転がり落ちないとも限らない。
硬い表情のままつくしが頷くと、扉が閉められる。

動き出す車。
車内に大きな振動はない。
司の頭部に手を当てながら、その顔を眺める。


閉じたれた瞳。寄せられる眉。
洩れる息があることから、気道は確保されていることが判る。
僅かに動く唇。何かを言っているようにも見えるが、その声は聞こえない。

思えばこんな近くで司の顔を見たのは、10年ぶりのこと。
眉間の皺は、昔より濃くなっている気がするが、瞳が閉じられているため、いつものきつい印象は薄れている。


頭部に置いた両手のうち右手をずらし、そうっと司の髪に触れる。
きつい天然パーマは相変わらず。
この髪に触れたのは、いつ以来の事だろう。


苦しげに歪む司の表情。
彼もまた、つくしや類同様、深い森を彷徨っていたのだろうか?
そうっと、髪に触れた手で司の頭を撫でる。

「…大丈夫だよ…道明寺。
あんたも…ひとりじゃないから…」

つくしの小さな呟きが、司の耳に届いたのだろうか?
僅かに司の顔が緩んだが、それにつくしは気付かず、只只、司の頭を撫で続けていた。





帝都大学病院の裏側
-主に政治家や財界人等が利用する、別口の近くに車が止まる。
類の言葉通り、医師、看護師数名が待機している。
ドアが開くと看護師達が手際よく司をストレッチャーに乗せる。
つくしも逆側のドアから飛び出したが、司を乗せる看護師の1人に見覚えがあった。

「優紀…?」
「え…? つくし…って…ど、道…」

優紀が司の顔を見て、思わず名前を言いそうになったのを押さえる。
ここを利用する患者がVIPであることは周知の事実。
病名を隠す者も少なく無い中、誰が何処で聞いているか判らない。

「つくし…一体…」「松岡さん」

つくしに話しかけようとした優紀だが、同僚の看護師から声が掛かる。
途端に優紀の表情は看護師のそれに戻る。
つくしに「あとで…」と呟くと、司を乗せたストレッチャーと共に院内に消えた。

「牧野さん…ですよね?」
司達を見送るつくしに、覚えのある男性の声が届く。
白衣を着た鳴沢の姿に、つくしは近付き一礼をした。

「先生…あの…」
「倒れた状況は花沢社長から伺っています。
担当は脳外科に詳しい医師が診ますので、大丈夫です。
それより…こちらへ。細かい事情をお伺いしたいのですが」
「あ…はい」

促され、つくしも院内に入る。
通されたのは、鳴沢に与えられた一室だった。

「簡単には伺ったのですが、患者…道明寺さんは一体…?」

周りには他に人が居ない事を確認し、鳴沢が司の名を口にする。
つくし自身、何処まで話していいものか迷ったが、治療のこともある。
簡潔に、10年前暴漢に襲われたことと、記憶障害のことを話した。
黙ってそれを聞いていた鳴沢だったが、つくしが話し終わると
「そうですか…」と、黙り込む。

「あの…先生。何か…?」
「否。私は専門ではないので、はっきりとは言えないのですが…」
前置きをしつつ、言葉を続ける。

「消えた記憶に関して何かあるのかもしれませんね。記憶が戻る…とか。
これまでにもこんな事はあったのでしょうか?」
「それは…すみません。その…よく…判らなくて…」

司の普段の状況がどうだったのか?
今のつくしは当然ながら、全く何も知らない。
恐縮するつくしに、鳴沢が声を掛ける。

「…ああ、その辺りの事は、担当医がご家族に確認するから大丈夫ですよ。
只、事前に何か判れば…と、思っただけですので」
「…すみません…」

柔らかい鳴沢の口調に、つくしが再び頭を下げていると、ノック音がし、看護師が現れ鳴沢に何か告げる。

「治療が終わったようです。とりあえず、大丈夫との事ですよ」
「そうですか…」

鳴沢の言葉にほっと安堵のため息を洩らすと、鞄の中のスマートフォンが鳴る。
断りを入れ出ると、相手は類だった。
これからこちらに向かうと言う。

「病室の方に行きましょう。
社長も来られたら、そちらにお通ししますので」

鳴沢に続き、つくしも立ち上がった。


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