駄文置き場のブログ 2nd season

□ 本編 『In The Forest』(完結) □

In The Forest 77

第77話



案内され、つくしが特別病棟の一室のドアを開ける。
広い病室内に置かれたベッドの上に横たわる、司の姿。
何処かで見た…と思いながら、それが10年前に見た風景に酷似していることに気付く。

-今入ってきた奴 誰。
耳に甦る司の冷たい言葉に、僅かに身体が強ばる。
中に入る事を躊躇していたつくしに声を掛ける者が居た。

「牧野様…」
「あ…えっと…西田さん…」
西田が担当医と何やら話しているのが見える。
呼ばれ2人に近付くと、軽く一礼をした。

「あの…それで…ど…道明寺…は…?」

恐る恐る尋ねると、脳波に異常は無く、見られるのはオーバーワークによる過労とのこと。
急を要するものではないことに、ほっと安堵の息をついたつくしだが、ふと気付いたことを口にする。

「西田さん。その…家族に連絡は…?」
「社長には連絡致しましたが、現在ニューヨークで商談中です。
会長も同じくニューヨークで静養中。
椿様はロスですが、これから駆け付けるそうです。
あとは…その…奥様ですが…」
若干言いにくそうに口籠もるが、つくしが視線で先を促す。

「…現在、離婚協議中でして…恐らくはニース辺りにいらっしゃるかと…」
「………そう……ですか………」
何と答えて良いのか判らずそれだけを口にし、眠る司の方へ顔を向ける。
昔、年に一度顔を合わせるか合わせないかの家族、と言っていた司。
現在も尚、その状態が続いているという。

そんな物思いに耽っていると、ドアが開き類が現れる。
慌てて来た類に、とりあえず落ち着いていることを告げると、僅かに安堵の表情を見せた。

様子を見に、つくしが音を立てぬようそっとベッドに近付くと、司の瞼が僅かに動く。

「……ど…みょう…じ…?」
つくしの呟きに反応するように、更に瞼が動き出す。
ベッドに覆い被さるように顔を覗き込んだとき-
司の瞼がゆっくりと開いた。





-人にやってもらわなきゃ幸せになれない女だって思わないでよっ
…ああ、そうだな。お前はそういう女じゃなかったな…

-あんたが好きだって言ってるじゃない。このぼけなすッ。
俺の方がお前よりずっとずっと、お前の事が好きだぜ。
…それに…好きな男に『なすび』はねぇだろ…。


けれど…そんな処が牧野、お前らしいんだよな…。


頭の中に掛かっていた、霧が晴れる。
ちっこいくせに強気で、強情で、タフで
-けれど泣き虫な、誰よりも愛おしい女の姿。
真っ黒い、大きな目が心配そうにこちらを見つめる。

-大丈夫だ、俺は。そんな心配そうな顔をすんな。
そう言って微笑み掛けようとして…
すべてが目映い光に包まれていた。





「………ン……」
横になっている司の瞼がゆっくり開き、身体が僅かに動く。
司の眼に飛び込んで来たのは、心配そうに顔を覗き込むつくしの姿。

「ま…きの…?」
掠れた声で司が真っ先につくしを求める。

「道明寺さん。ご気分は如何です?」
「う……頭…痛ぇな…少し…」

近くに居る担当医が尋ねる声に、上体を起こそうとしながらそう答える。
慌てて担当医それを制するが、つかさは遮るように身体を起こした。
司の視線が、目の前のつくしを捉える。

「牧野…?」
一瞬ぼうっとしたものの、次の瞬間にはっとしたように声を上げる。

「牧野…! お前、怪我はないか!?」
「……へ……? なに…?」
「怪我だよ、怪我! 変な記者がお前を突き飛ばしただろ?
それに…誰かが…俺を…?」

背中から刺した…?
そう言い掛けて気付く。背中に痛みは無い。
再びつくしに目を向ける。そして、その隣に立つ類にも。

「…類…お前も来て居たのか……?」
口にしつつ気付く違和感。
2人の姿は、司の記憶と何処か異なっている。

スーツ姿の2人。
高校生の筈が、2人とも一端の社会人に見える。
否、見えるのではなく…

「……司……お前、今いつだか判る…?」
「…今……?」

-類の奴、何を言ってやがる…
そう思いつつ、もうひとつの記憶が甦る。
つくしを罵倒した自分。引き摺られるようにして行ったニューヨーク。
苦痛しか無かった結婚。あれはすべて夢…?

「…じゃ…ねぇ…?」
驚愕に満ちた眼でつくしと類を見る。

あの事故から既に10年が経過し、自分は会社経営者になり、そして今、類を相手に裁判を起こし、その類の弁護につくしが付いている。
それはすべて、夢では無く、現実のこと…?

「…ま…さか…。はは…そんなこと…」
司の乾いた笑いがその場に響く。

「…嘘だろ…? あれから…10年も経っているなんてよ…」
「ど…うみょうじ…」
「嘘だって言えよ! 牧野! 類! 
これは全部夢だって…!」「道明寺さん」

その場で暴れだそうとした司を、慌てて医師と看護師が押さえる。
類にもつくしにも、その姿を只、呆然と眺める事しかできなかった。




暴れようとした司には直ぐに安定剤が打たれ、再び場は静寂を取り戻す。
離れの別室で、西田よりこの件は他言無用に願う旨を伝えられた。
類もつくしも黙ったままそれに頷き、病室を出る。


「…送るよ…。乗って」

黙ったまま首を振るつくしの腕を、半ば強引に掴み、後部座席に押し込む。
そのままつくしの自宅へ行くよう告げると、運転席との間に仕切りがされる。
非難の声を上げようとして、つくしが押し黙った。
今は何も考えられない。
つくしの瞳は、呆然と空を見つめたまま。
隣に座る類も、腕を組んだまま、一言も発しない。


つい先程、ほんの数時間前迄は、何も話さなくても、お互いの意思が手に取るように判ったというのに…。
今は隣に座っていても、何を考えているのか、
何をどう言ったらいいのかが判らない。


車内を、重苦しい空気感が支配していた。


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