駄文置き場のブログ 2nd season

□ 本編 『In The Forest』(完結) □

In The Forest 78

第78話



司の様子の驚いたものの、その後のつくしに大きな変化はない。
無論、司入院のことは、ニュースの影にも上って来ない。
優紀が少しだけ話してくれた情報によると、あの後、司は直ぐ道明寺系列の病院に転院したとのこと。
入院した事実はトップシークレットで、つくしが言われたのと同様、他言無用ということも告げられた。

類の様子も、表向きは何ら変わりは無い。
第3回口答弁論に向けての打ち合わせが、事務的に続くだけ。
その後ろにあるものを、お互い口に出せないまま、只、時だけが過ぎていった。




安定剤を打たれ、再び眠りの淵に落ちた司が次に目覚めたときには、先程寝かされていた病室と異なっていた。
何処か見慣れた感じから、道明寺系列に転院されたと気付く。
先程迄居た筈のつくしの姿は、無論無い。

白い天井を眺めていると、これまでの事がまざまざと思い出されてくる。
つくしに向けた罵詈雑言。
突如現れた女をつくしだと勘違いしたこと。
そのままニューヨークに渡り、薦められるまま結婚。
つい最近、日本に帰国してからも、つくしに対ししてきた数々のこと。

-お前、後悔するぞ。

あきらの言葉はある意味正しい。
『正攻法ではないこと』こそしなかったが、決して褒められたものではない、つくしに対する態度の数々。
後悔などしたことのない司だが、つくしに関する事だけは消し去ってしまいたい。

よく考えてみれば、記憶は無くても判りそうなものだった。

司が結婚前も後も、タブロイド誌を騒がせた『恋人』という女達。
彼女達に共通していたのは、『黒髪』『小柄』『アジア系』
無意識に求めていたのは、つくしの姿だったのだから。
だが、幾ら姿形だけを求めても、心は満たされない。
『真』のつくしを求め、何時までも彷徨っていた。

「………ッ………」


天井を見上げていた目を覆ったのも、一瞬のこと。
ここでウダウダと悔やんでいても仕方がない。
ベッドから起き上がり、スマートフォンを探す。
クローゼットに吊されたジャケットの内ポケットに、電源を切られた状態で入っている。


電源を入れた途端に入る連絡をすべて無視し、連絡先から求める番号を探し出す。
数回のコール音で出た相手に、早口でまくし立てる。

司に迷う時間は無かった。







第3回口頭弁論当日。

結局類とは、最後まで事務的な打ち合わせのみ。
-今までもそうといえばそうだったのだが、終わった後に茶房でお茶を飲んだり…といった雰囲気ではない。

-とにかく…今は集中しないと…。
つくしが気を引き締める。
特に今日は、志朗に別の案件が入っているため、弁護士はつくし1人なのだから。
何時もの通り、法廷前の控え室で類と待ち合わせ、中に入る。
後から入ってきた司が、こちらに視線を向けているのは判ったが、敢えてそちらを見ないようにした。

裁判官3名が現れ、開廷する。
最初は原告側からの主張だった。
代理人である弁護士が立ち上がり弁論を読み上げる。
いつもの強気姿勢…と、つくしだけでなく、傍聴者の誰もが思っていた。

なのに代理人の言葉が進むに連れ、場に音にならないざわめきが生まれる。
つくしも思わず、隣に座る類に目を向ける。
類の表情は端から見れば変わらないが、少しだけ、本当に少しだけ、驚愕の色が見える。
そうっと、隣の類から向こうに座る司に視線を移す。

司も類と同様、入ってきたときと全く表情は変わらない。
けれどその視線は真っ直ぐこちら、
-つくしに向かっている。
それまでの、敵意に満ちたそれとは全く異なる色を持って。

気を抜けばそちらに意識が囚われそうになるのを、必死で押さえ、代理人である弁護士の言葉に耳を傾ける。

それまでの明和製薬側の主張は、あくまで非はない、の一点張りだった。
それがここに来て一点、一部では非を認め始めた。

曰く…
販売していた製薬に効力が薄かったことは認める。
が、現在まで他社との開発競争がなかったこと、事例が少なく治験例が少なかったことから、すべてが自社責任というわけではないと言う。
また、当時研究社員であったリートミュラーの責任についても、いち従業員として、会社の誤りを正す義務を怠った事を言及している。
原因の一端は、リートミュラー側にもあることを認め、すべてが明和製薬側の責務では無いとするならば、類に対する名誉毀損は取り下げ、こちらの要求である謝罪にも応じる姿勢があると匂わせてきた。
その上で、今後の課題提案として、類の持つ製薬の処方箋の一般開示を要求をする。

代理人が答弁を終え、着席する。
多少の誤差はあるものの、ほぼ類が望んでいた内容に近い。

被告人答弁を求められ、類の方に顔を向ける。
僅かに頷く類。
了解を合図するように、つくしが少しだけ目を伏せると、立ち上がる。


「本訴原告側の主張は了解致しました。
本訴被告側と致しましては、和解の方向に進みたいと考えております」

つくしの言葉に、傍聴席側が一瞬ざわめく。
裁判官が原告側に和解の方向で手続きを進めることの確認を取ると、代理人の「然るべく」という回答が来る。

急展開の中、第3回口頭弁論は閉廷した。



閉廷と同時に、報道陣は外に掛け出す。
予想もしていなかった展開に、マスコミは騒ぎ立てるだろう。
傍聴人も「何で急に…?」と、口々に話しながら外に出る。
つくしも大きく息をつくと、書類を片付け席を立ち上がる。
向こう側に座る司の姿は、既に無かった。

「…後は、向こうの弁護士との話し合いになると思う。
ゲオルグさんの謝罪文は、公開してもいいのよね…?」
「………ああ………」
概ね類の主張が通ったというのに、類の表情は複雑な色を醸し出す。
それも致し方ないのだろう。

「いきなり合意にはならないから…また確認を…あ…」
「? ……なに……?」
つくしが思い出したように鞄を探る。

「控え室の方に忘れ物していたみたい。取ってくる。先に行っていて」
「………ん………」

パタパタと控え室へ急ぐつくしの後ろ姿を切なげに見送る。
つくしからマスコミの目を反らせるため、裁判所に一緒に出入りすることはしていない。
でも今日は、もう少し
-せめて建物の外に出るまでは一緒に居たい気分だった。



「あ…あった…。良かった…」
控え室のテーブルに置かれたダブルクリップ。
ビジネス用ではない、可愛らしい柄が描かれているそれは、以前離婚調停を担当した人の子供から、お礼にと貰ったもの。
無くなっていないことにほっと安堵し、部屋を出ようとしたとき、入り口に人影が見える。
次の法廷の使用者か…? とそちらへ顔を向けると、思いがけない顔がそこにあった。

「牧野」
「………道明寺………」


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