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駄文置き場のブログ 2nd season

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In The Forest 85

第85話


部屋に入ってきた類の顔を見て、鳴沢がため息をつく。

「あまり…顔色が良くありませんね…」
「…光の加減のせいです…」
そんな言葉では誤魔化せない事は重々承知の上で、そう告げる。

「…本当に…、気分は良いんです。最近では落ち着いていますし」

それは事実だった。
つくしと過ごした1日の後、体調は以前よりずっと良い気がする。
類の言わんとしていることは、鳴沢にも判る。
気は心。
気力で持ち直す、そういった事例があることは否めない。
けれど医師として、医学的根拠が薄い事例だけを頼るわけにもいかない。

「花沢社長…。やはり期日を早めた方がいいと思います」
「…呼び捨てで結構ですよ。先生。
……あと2週間で良いんです。
和解判決のとき、その時までは保たせて下さい。
その後は…先生の仰る通りに致します」
「……………」
「先生の事は信頼しています。ですが…仰る通り100%ではない。
そのことを考えると…すべきことはしておきたいんです」
「…先生は、貴方に無理をして欲しいと等と、仰らない筈ですが…?」

鳴沢の言葉に類が苦笑する。

「…そうですね。
『君が本当に望む未来を歩んで欲しい』それがゲオルグの、最期の言葉です」
「ならば…」「その時…」
鳴沢の言葉を遮るように、類が続ける。

「その時、彼に約束しました。ゲオルグが果たせなかった夢の実現。
新薬の認可と共に、明和にも謝罪をさせると。
それが彼に対する、俺なりの礼の仕方だと思っています」

揺るぎない類の姿に、鳴沢は大きくため息をつく。
そして引き出しから袋を取り出した。

「いつもの薬と鎮痛剤です。あとは調整用の薬も入っています。
飲み忘れに注意して下さい」
頷きそれを内ポケットに入れる。

「……諄いようですが…。
何方かにお知らせした方がいいと思います。
お身内にでも…」
「身内に知らせたら…明日にでも無理矢理結婚させられ、人工授精でもして跡継ぎをでも作らされるでしょうね」

-そんな未来など、望まない。
嘲笑を浮かべる類の表情がそう告げる。

「でしたら、何方でも結構です。
ご自身でこの時間に運転するだけでも、負担が掛かるのですよ?」

運転は只でさえ緊張し、神経を使う。
夜間ならば尚更。
精神の疲労はやがて肉体にも影響を及ぼすのだから。
諭す鳴沢の言葉に、類も口を噤む。
黙りの類の様子に軽く息をつくと、話題を変えた。

「…そういえば…。先日、牧野先生がお見えになりました」
「…牧野が…?」
「ええ。和解の件で、患者か遺族の話を聞きたいと…」
「先生は…何と…?」
やや緊張した面持ちで尋ねる。

「個人情報に関することだから、親族以外には詳細を教えられないとお伝えしました。
口を挟むようですが…
牧野先生には、お知らせした方が宜しいのでは?」

類のつくしを見る眼は、只の後輩を見るそれとは随分と異なる。
それは一度、一緒に居るところを見ただけの鳴沢でも判るほどに。

鳴沢の問い掛けに、僅かにその眼が揺らめいたものの、黙って首を横に振る。

「先生の仰ることはよく判りました。
……『味方』になりそうな人物には、話しておきます。
牧野には…まだ言わないで下さい。…裁判が終わるまで」
「……判りました。けれど…」
一呼吸置き続ける。

「私は医者です。
生きようとする者が危険な状態にあるときは、どう言われても、それを生かすことを最優先します。
必要であれば誰かに話しますし、貴方の『待った』は聞きません」

類を見る鳴沢の目は厳しい。
医者として、心配をするからこその言葉。

「そう…ならないことを、願います」

類が一礼し部屋を出る。
残された鳴沢が、椅子の背もたれに寄り掛かり、天井を仰ぐ。

「…リートミュラー先生。
…貴方の最後の『患者』を、どうかお守り下さい…」

鳴沢の呟きを聞いた者は居なかった。






「社長、お呼びでしょうか?」

田村が入ってきたことにより、類は書類にサインする手を止めると、目の前に立つ田村の姿をしげしげと眺める。
そうすること数分。
時折掴み所のない行動をする類に慣れている田村も流石に困惑し、思わず尋ねる。

「あの…? 社長…?」
「…田村は、会社入って何年?」
「…は…? はい、今年で27年目になります」
「ふーん。…結構長いんだ。先々代からだっけ?」
「はい。入社したときの社長は、先代会長でした」

類付きの秘書になって5年以上経つが、個人的な事を聞かれたのは初めてだ。
その真意が判らないものの、尋ねられたことを素直に答える。
類は再び考え込むようにしていたが、徐に口を開く。

「田村に、頼みがある」
「はい」
何時にない類の真剣な表情に、田村の表情が僅かに硬くなる。

「……これから見聞きすることは、他言無用だから」
軽く息をつくと、類は引き出しから封書を取り出し、目の前に置く。

「あの…これは?」
「読んで。この場で直ぐ」
「は…」
困惑しつつ封書を開き、書類に目を通す。
読み進めるうち、その表情が驚きのものに変わる。

「あのっ…! 社長。これは…!」
「書いてあることはすべて事実」
「ですが…。これは…」
「長年勤めた田村のことを無下に扱うことはしない。
…だから、協力して欲しい」

真摯な瞳で自分を見据える類に、田村は只、頷くことしか出来なかった。


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