駄文置き場のブログ 2nd season

□ 本編 『In The Forest』(完結) □

In The Forest 92(完結)

第92話(完結)



「閉廷致します」
裁判官の宣言と共に、入り口近くに居た報道関係者は外に走る。
一般傍聴者も、ざわざわと話し始めた。

今回の和解内容は勿論のこと、傍聴者の興味は、今日、ここに現れない類の事だろう。
傍聴席に居た総二郎やあきらも、何か言いたげな顔でこちらを見ている。
でも今はまだ話せない。

類には今日一日だけ、入院している事を誤魔化して欲しいと言われた。
明日には手術することが決まっている。
今日だけは、知らぬ存ぜぬで通してくれと。

-ごめんなさい。西門さん、美作さん。
心の中で手を2人に合わせていると、隣の志朗が声を掛けてくる。

「牧野先生。お疲れ様でした」
「シロ先生。…色々ありがとうございました」
つくしが志朗に向かって頭を下げる。

今回の和解が上手くいった背景には、志朗のサポートも大きかった。
志朗が主で行えば、きっともっとスムーズに終えることが出来たのだろう。
なのに「今回は牧野先生の案件ですから」と、自らはサポートに徹し、必要な要所要所で的確なアドバイスをくれる。
類の状況を知っても、表情ひとつ変えず落ち着き払っていた。
変わらない平常心。
そのことに、どれ程の安心感を抱いたか判らない。
こういった弁護士になりたいと、改めて思う。

「…報告に、行かれたらどうですか? …花沢さんに」
周りに聞かれぬよう小声でそう告げる志朗に、コクリと頷いた。







-類が居ない…?
つくしが志朗と共に入って来ても、類が来る気配がない。
真正面の位置に座る司が、居るべき場所に居ない親友に気付く。

-最終判決は行く。
そう、類は告げていた。
なのに来られないということは、それ相応の状況なのだろう。
何やら嫌な予感を抱えたまま開廷される。

つくしがこちらに同意を求めて来たことで、弁護士が小声で尋ねて来る。
司が僅かに頷くと、弁護士が同意を示し、つくしが謝罪文を読み上げる。
その姿を、司は僅かに眼を細め見つめる。


-綺麗になった。
そう思う。
それは姿形では無く、もっと奥深い処の何かが。

つくしの気持ちがどうであれ、
やはり自分は、つくしに惹かれるのを止められない。
憎んでも怨んでもいいとつくしには言われた。
愛情、それが拒絶されると愛憎に変わるという話はよく聞く。
冗談ではない。
つくしに対する想いは、そんな自己陶酔的なものではない。
それはもう一人、同様につくしに心を寄せる親友もまた同じ。

つくしに笑って居て欲しい。
例えつくしが、自らの隣に居なかったとしても。
それでも、つくしを愛し続けることを止めることだけはない。


司が僅かに眼を伏せた。
朗々と裁判所内に響く、つくしの声だけに耳を寄せるかのように。




「副社長、この後のご予定ですが…」

法廷を出た廊下で待っていた西田が声を掛けて来た時、司の胸元に振動が走る。
裁判中は音を消していたスマートフォン。
表示を確認し、それを受ける。

「……え……なに…っ!?」
「…副社長…?」

司の只ならぬ様子に西田も怪訝そうな顔をする。
スマートフォンを切った後も、司は青い顔色のまま動かない。
が、突然方向転換し、法定内に再び向かうと、書類を鞄にしまい、立ち上がったつくしの腕を掴む。

「………行くぞ………」
「え!? ど…道明寺…?」

驚くつくしを余所に、力任せにつくしを引っ張る。
周りに居た傍聴人も、遠巻きに何事か? と眺める。

「ちょ…ちょっと……! は…放してよ…!」

つくしは抵抗するが、男の力の前ではびくともしない。
引き摺られるようにエレベーターホールに連れて来られる。
司が苛立たしげに下へ降りるボタンを連打した。

「待ってってば。まだこれから…」
「……………」

つくしが何を言っても、司は一点を見つめ黙ったまま。
来た誰も居ないエレベーターにつくしを押し込むと「閉じる」ボタンを押す。
そのとき、滑り込むように総二郎とあきらが駆け込んで来た。

「おい、司! お前一体何…」
「あんな処で牧野を連れ出す事も無いだろ?」
「…………」
「道明寺…?」

エレベーター内に居るのは4人だけ。
司が重い口を開く。

「……類の容態が悪化した……」
「え…?」「容態…?」「司お前何…」

何故、司が知っているのか?
容態ってどういう事だ?
一体何を言っているんだ?

三者三様の疑問が浮かぶ中、司が続ける。

「これから緊急手術が行われるそうだ。
今から行けばギリギリ間に合う。行くぞ」
「…そ…んな…。だって…」

足下が崩れ落ちる感覚がするのは、エレベーターに乗っているからだけではない。
僅かに傾いだつくしの身体を、司が片手で支えると総二郎達の方に向き直る。

「…説明は後でする。
表の連中を引きつけておいてくれないか?」
いつにない真剣な表情の司に、総二郎もあきらも尋ねる言葉を飲み込む。

「ああ…判った」「任せておけ」
2人が口の端を上げた時、乾いたペルの音が1階に降りたことを告げた。



裁判所の表には、山のように連なる報道陣。
レポーターらしき人物がマイクを片手に何やら話し、カメラは司達が出てくるのを今か今かと待ち構えている。

「行くぞ…」
司の言葉につくしが頷く。

ドアが開いた途端に押し寄せる報道陣。
それを司が無言の睨みで制する。
怯んだ隙に、司とつくしが駆け抜け車に乗り込む。
唖然とする報道陣の前に、悠々と総二郎とあきらが現れた。

「法廷の様子、聞きたい人は居ます?」

一瞬、呆気に取られたものの、F4のうちの2人の出現に、報道陣の目は一斉にそちらへ向かった。
社交的な2人が、慣れた様子で対応をする。
その心は、類の元へと急ぐ司とつくしに向けられていた。







「採血です」

優紀が病室のドアを開けると、類はベッドに身体を起こし、備え付けのテレビを眺めていた。
映っているのは、高くそびえるビル。
レポーターが何やら喋っているのが聞こえる。

「…間も無く閉廷時刻ですね…」

優紀が針を抜いた部分を手際よく絆創膏で押さえながらそう言うと、類が僅かに頷く。
丁度画面には、今朝撮影されたつくしが裁判所に入る姿が映し出された。
報道陣の数をものともせず、真っ直ぐ前を見つめ建物の内部に入るつくしの姿。


-綺麗になった。
そう思う。
それは姿形では無く、もっと奥深い処の何かが。

つくしに会う度につくしに惹かれて行く。
止められない。
きっとそれは一生、変わること無く。

-君が本当に望む未来を歩んで欲しい。
何度もそう告げたゲオルグに、胸を張って言える。
何があってもつくしと共に歩む。
これが、本当に望む未来なのだと。


柔らかく温かいものが胸に広がった刹那、言い様のない痛みが類を襲う。
類の身体が前に傾ぐ。

「…花沢さん…?」

発作か…? と優紀が駆け寄るが、類の様子は尋常では無い。
枕元にあったナースコールで、容態の急変を告げる。
急いで類を横にしながら、呼吸器をセットする。

「花沢さん。大丈夫ですからね。頑張って下さいね。
…つくしが来る迄、頑張って下さいね…」
作業を進めながら、必死に呼び掛けていた。



帝都大学病院の専用入り口に着いた途端、司とつくしが駆け出す。
中に控えていた司の手の者が、間も無く手術室に入ることを告げ、そちらへと案内をする。
静かな病院内を、走る足音だけが響く。

廊下の角を曲がった時、真逆から、ストレッチャーに乗せられた類が運ばれて来るのが見える。

「類!」
つくしがそれに駆け寄る。

「類! 類!!」
つくしの呼びかけに、類は苦しげに眼を閉じたまま。

「つくし…大丈夫だから…」

優紀が安心させるようそう告げるが、つくしの耳には届かない。
只、類に向かい名を呼び続ける。

閉じられていた眼が僅かに開く。
最早、見えているのかどうかすら判らないというのに、類はつくしの姿を捉えると笑う。
類の顔には呼吸器が付けられ、端から見ればその表情に変わりは無い。

なのにつくしには判る。
類はつくしを見て笑顔を向けたのだ。
まるで『心配するな』とでも告げるように。



類を乗せたストレッチャーが手術室に入り、重いドアが閉ざされた。




-In The Forest fin-





-----------------------
これ以降の話は、続編 『絶え間なく愛を』に続きます。
もうひとつのエンディング『Missing』は『駄文置き場のブログ』にてお楽しみ下さい。
なおこちらは、続編『絶え間なく愛を』の完結後にUP予定となります。


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2016/06/12 【】  # 

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鍵コメ「さ」様

ご訪問&コメント、ありがとうございます♪

お久しぶりです。
早速ご訪問頂き、嬉しいです(^^)
ありがとうございます。<(_ _)>

今回のは…本当に全公開にするのは若干気が引けて…
かといってお友達用のお礼とも…とても言えない…
悩んだ末で、こちらでUPすることと相成りました。
1st season共々、宜しくお願い致します。<(_ _)>
コメント等は、向こう共々、お気になさらず…


リレーブログ、色々あって…ああなりました(^^;)
次の方は…大丈夫です。しっかり軌道修正して頂いておりますので(^^)
NFの作家様、本当に凄いお話を書かれる方ばかりですので、
是非是非、最後までお楽しみ下さい♪
2016/06/13 【星香】 URL #- 

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2016/06/13 【】  # 

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鍵コメ「ま」様

ご訪問&コメント、ありがとうございます♪

早速のご訪問、嬉しいです。
ありがとうございます。<(_ _)>
私自身、FC2に全く慣れておらず…
とりあえず、お話の投稿と、コメントの管理は判ったのですが
それ以外は???? が多く手探り状態です。
こちらこそ、お返事が遅くなり、申し訳ございません。<(_ _)>
メールアドレスは流出の無いよう、早々に破棄させて頂きますね。

あと…すみません。確認なのですが…
「ま」様は、yahooでは「yu」様で宜しいのですよね…??
メールフォルムより頂いた者が現在「yu」様のみとなっておりましたが
この辺りもよく判らなくて…??
違っておりましたら、本当にごめんなさい。<(_ _)>

続編の更新は17日の22時からとなります。
かなり厳しい内容となりますが…
宜しければお付き合い下さいませ。<(_ _)>

2016/06/14 【星香】 URL #- 

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2016/06/14 【】  # 

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ご訪問&コメント、ありがとうございます♪

ハンドルネームのことはお気になさらず…
私も「星香」と「せいか」を分けておりますし、
プライベート用ブログ(FC2ではありません)ではまた別のハンドルネームがありますので…
どんだけ名前があるんだ! って感じですね(^^;)
ただ何度も来て頂いているのに、「はじめまして」等と、書いてしまいそうでしたので…(^^;)
書きやすい方で書いて下さいね。(^_-)-☆

ちなみにyahooでの自分の名前はPCですと…
「管理画面(マイページ)」→自分の名前をクリック→
プロフィール画面の「編集」をクリック→表示名の処を入力すれば治るようですよ(^^)
宜しければお試し下さいませ…
2016/06/14 【星香】 URL #- 

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2016/06/15 【】  # 

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鍵コメ「ぐ」様

ご訪問&コメント、ありがとうございます♪
こちらまでお越し頂き、嬉しいです(^^)
(こちらでは「ぐ」様と書かせて頂きますね)

中途半端なEndなうえに、別ブログにしてしまうという悪行。
それにも関わらず、探していただいたこと、本当に感謝の気持ちでいっぱいです。
ありがとうございます。

お読み頂いて無理そうでしたらUターンして下さいね。
yahooでも『Missing』での完結をUP致しますので…

改めまして、宜しくお願い致します。<(_ _)>
2016/06/16 【星香】 URL #- 

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2016/06/16 【】  # 

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2016/06/16 【】  # 

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k鍵コメ「て」様

ご訪問&コメント、ありがとうございます♪
こちらにも来て頂き、嬉しいです(^^)

17日の22時より第1話がUP致しますが、
内容は…本当に厳しいと思いますので、無理そうしたらUターンなさって下さいね。

1st共々、宜しくお願い致します。<(_ _)>
2016/06/16 【星香】 URL #- 

*

鍵コメ「ai」様

ご訪問&コメント、ありがとうございます♪
こちらこそ、お越し頂き嬉しいです~(^^)

続編は…本当に厳しい内容だと思います。
読んで頂いて、無理そうでしたらUターンなさって下さいね。

1st共々、宜しくお願い致します。<(_ _)>
2016/06/16 【星香】 URL #- 

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2016/07/08 【】  # 

* 鍵コメ「オ」様

ご訪問&コメント、ありがとうございます。

ええ! びっくり…。お忙しいのに……。
(でも、テンプレは頑張ったので見て頂きたかったのですが…えへ。^^;)
こちらこそ、ありがとうございます。<(_ _)>

ある意味、禁忌のものに手を出してしまいました。
…結果、最後まで苦労し通しでしたね…
アラも目立つお話なのですが、
何とか結末まで来られてほっとしております。

もうひとつのendはyahooに戻ります。
お付き合い下さいませ…<(_ _)>
2016/07/08 【星香】 URL #- 

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